※本コラムの内容は個人の意見であり、神職および神社関係者の総意ではない点にご留意願います。
神社って何をする場所なんだろう?神主さんって日々、何をしているんだろう?
そう聞かれて、答えられる人は少ないのではないでしょうか?私たち神職にとっては当たり前のことでも、一般の方からするとミステリアスに感じる部分がありますよね。
私が一般の方とお話をしていると、「神社とお寺がごっちゃになっているなあ」と感じることがとても多くあります。先日も、白衣・袴姿でいるときに「ご住職!」と声をかけられました。住職はお寺側の呼称です。確かに一般の方からしたら、「和装をしている人→おそらくお坊さん→住職」と思ってしまうのでしょう。
また、「神主さん、お経ってすべて覚えているんですか?」と聞かれたこともあります。お経は仏教で読まれるものであって、神道で読まれるものは祝詞(のりと)や祭詞(さいし)と呼ばれるものです。
このように、神社とお寺の区別がついていない方は実に多いと感じます。そこで今回は、神社とお寺の違いについて主要なものを紹介したいと思います。これで神社・お寺に関する「どっちだっけ?」がまず、理解できることと思います。
信仰対象が目に見えるお寺・目に見えない神社
まずは簡単に、神社とお寺の違いを整理しておきたいと思います。次の比較表を見てみましょう。
このように比較すると、違いが理解しやすいのではないでしょうか。
神社とお寺では、そもそもの宗教が異なるので、当然ながら信仰対象も異なります。神道は「八百万の神(やおよろずのかみ)」と言われるだけあって、どのようなモノであってもそこに“みたま”が宿れば「ご祭神」として信仰の対象となります(“みたま”については前回のコラムで解説しています)。
神道では“みたま“が宿っている対象物を「ご神体」と呼びます。ご神体は鏡、剣、勾玉などその種類は神社によってさまざまですが、基本的にはご神体を直接目にしてはいけないものとされています。
一方、お寺であれば、お釈迦様や観音様といった、ご本尊を直接目にすることができます(ただし、ご本尊を“秘仏”として非公開にしているお寺もあります)。それに比べると、神社はそのご神体を直接目にしてはいけない。これも神社がミステリアスといわれる所以の1つなのかもしれません。
僧侶と比べて、神職はとても“レアな存在”
さて、次に数字で比較してみましょう。
神社の数とお寺の数は、それぞれ8万くらいとほぼ同数である一方で、教師数が大きく異なります。ここでいう「教師」とは、それぞれの宗教団体が定める資格を有している者を指します。神社でいえば、基本的には神職の数ということになります。
ところで、神主が常駐していない神社、「無人の神社」はよく見かける一方で、「無人のお寺」は少ないと思いませんか?
これは、神社とお寺で教師数に大きな違いがあることが原因と思われます。実は全国ほとんどの神社を束ねる神社本庁(※1)配下の神社に限ると、その教師の数は約2万人しかいません。一方で仏教系の教師(僧侶)は35万人もおり、神職はレアな存在であることがお分かりいただけることでしょう。無人の神社が多いのは、神社数に対して神職の数が少ないからなんです。
教師数が少ないということは、宗教を広めるための活動ができる人が少ないことを意味します。これも神社がミステリアスといわれる所以の1つだと考えられます。
次に信者数を見てください。神社・お寺、いずれも8000万人超とあり、合計するとなんと日本人全体の人口を超過します。
この数値は、各宗教団体が独自の計算方法によって算出し、文化庁に提出しているものです。そのため「実情を反映した数値なのか?」と言われると不明な部分もありますが、国が発表している公式な数値として知っておくとよいでしょう。
この数値から言えることは、「日本人の多くは神社の氏子でもあり、お寺の檀家でもある」ということです。外国の方からすると、理解しにくい事象かもしれませんね。
※1 参考:全国78000社の神社を包括している包括宗教法人。
https://www.jinjahoncho.or.jp/
神主がよく聞かれることーー職業としての「神主」って?
さて、神社とお寺の違いをある程度抑えたところで、ここからは私がよく聞かれることを紹介していきたいと思います。神社にはそんな質問もくるのか!と思うような、神社の新しい一面を知っていただけるかもしれません。まず聞かれることの1つは、「職業としての神主」に関する質問です。
「宮司さん!」
白衣・袴姿で境内を歩いたり、地鎮祭など外のお祀りに出かけたりすると「宮司さん!」と呼ばれることがよくあります。
冒頭で紹介した「住職さん!」の例よりは、神社とお寺の区別がついているので素晴らしいと思いますが、惜しいです。私は宮司ではありません。「神主=宮司」と思っていらっしゃる方、実に多いです。
これは会社を例にとると分かりやすいので、下の図をご覧ください。
そう、宮司とは会社でいうところの「社長」にあたる役職名なのです。ほとんどの会社には社長が1名しかいないように、原則、神社も宮司は1名しかいません。ですので、役職が不明な神職に対しては「神主さん!」と声をかけていただくことが無難でしょう。
また、上の図にある通り、神社本庁配下の神社では、神職資格を持っていないと「宮司」や「禰宜」を名乗ることはできない点も、豆知識として知っておくとよいです。一方で、巫女さんは神職資格が不要です。
神主になるための修業は大変でしたか?
これも、お寺と神社がごっちゃになっている問いのようです。仏教のお坊さんは、悟りをひらくために厳しい修行を日々行っているイメージがありますよね。よって宗教家である神主も、日々厳しい修行を行っているのだと考えるのでしょう。
神職は、神様と人々のために祭祀儀礼を行う存在であって、厳しい修行を求められるものではありません。したがって修行という考え方がそもそもありません。(一部の神社を除く)
ただ、修行はないとは言っても、神職資格を得るための道のりは決して楽なものではありません。なかでも祭式(さいしき)と呼ばれる作法の訓練は厳しいもので、神様に失礼がないよう一挙手一投足に気を配ることが求められます。また、清浄を重んじることから、身だしなみなど常に清潔でいることや、清掃作業も頻繁に行います。
神職になるにはどうしたらよいですか?
神社本庁配下の神社に限った話となりますが、神職資格を取得する方法には次のようなパターンが存在します。
① 階位検定試験に合格する
② 神道系大学で専攻課程を修了する
③ 神職養成通信教育を修了する
④ 神職養成課程を修了する
①は自動車免許でいう一発免許に近いもので、とても難易度が高いです。私の知り合いの神職でも、このルートで取得した人は極めて少ないです。
上記のうち、最も多いのが②の神道系大学に通うルートです。神道系の課程がある大学は、東京の国学院、三重の皇学館が有名です。この方法であれば、修了することで神職資格を得ることができます。実家が神社でなくとも、知り合いに神職がいなくても資格を得ることが可能です。
③と④は神社関係者に推薦状を書いてもらう必要があります。よって、神社関係者とのつながりがあることが前提となりますが、短期間での取得が可能です。
神主に向いている人ってどんな人ですか?
様々な意見はあるかと思いますが、神職に求められる職能は次の通りだと考えています。
① 信仰心
② 清潔感
③ コミュニケーション能力
④ 知識(日本史、神話、暦)
⑤ 楽
⑥ 書
①と②は当然の心構えとして、意外と③もとても重要な能力です。参拝にいらした方に、いかに気持ちよく帰ってもらえるか、氏子さんたちとの良好な関係を築けるか。これは円滑な神社運営においてとても重要なことです。神社に限らず、どのような組織であってもコミュニケーション能力は重視される職能のひとつと言えるでしょう。
⑤の「楽」とは雅楽で使用する楽器の総称です。笙(しょう)、龍笛(りゅうてき)、篳篥(ひちりき)あたりが演奏できるととても重宝されます。⑥の「書」も大切。字が汚い神職はちょっと…ですよね(笑)。
こんなお困りごとや提案も、神社に相談できますか?
続いて、神社にはこんな日常のお困りごとや、提案も寄せられます。
人形の処分に困っています。神社で引き取ってもらえますか?
人形や写真など、思い入れのあるものを無下に扱うことができない方が、結構いらっしゃるようです。たしかに大切にしていた人形を、廃棄物として出すことには抵抗がありますよね。
人形や写真などのお焚き上げを引き受けてくれる神社は、多いと思います。お近くの神社やお寺に相談してみるとよいでしょう。
御朱印が欲しいです。郵送で送ってもらえますか?
御朱印は「お参りした証」ですので、原則はその神社に行ってお受けするものです。したがって、ほとんどの神社では郵送を受け付けていないと思います。
しかしながら、ご病気をされている方、高齢の方など直接お参りできない特別な事情があるなら、相談に乗っていただけるかもしれません。一度問い合わせてみるとよいでしょう。
神様に舞を奉納したいのですが…
意外に思われるかもしれませんが、神社にはこういった問い合わせが少なからずあります。
神様にお喜びいただけそうなものであれば、多くの神社ではお受けしていただけると思います。
舞以外にも、花を捧げる「献花」、お茶を捧げる「献茶」といった奉納を希望される方もいらっしゃいます。神様あっての神社ですので、このようなお気持ちはうれしく思います。
ときには「ビジネス」に関する相談も
神社を撮影地(ロケ地)として使わせてもらえますか?
ドラマや映画の撮影などで、「神社内でロケをさせてほしい」という要望をいただくことが結構あります。許可するか否かは、その神社の宮司のスタンスにもよりますが、殺人事件や暴力事件が起きたりするようなシーンはおそらく撮影許可がおりないでしょう。神社は神様がおられる場所であり、また縁起の良さが求められる場所だからです。
神社って、売上に税金がかからないんですよね?
これも良く聞かれます。
答えは「宗教活動に関する収益に関してのみ、非課税になる」です。おみくじやお守りなどの授与品販売や、ご祈祷といった宗教活動による収益は、非課税になるということです。
一方で、宗教活動以外を「収益事業」といい、これらは税金がかかります。たとえば駐車場貸しや飲食物提供などを行う神社もありますが、これらは収益事業にあたり、神社といえど納税の義務が生じます。
そもそもなぜ宗教活動は非課税とされるのか、その理由を知っておきましょう。
- 宗教活動は営利目的の活動ではないため
- 宗教法人は「公益法人」に位置付けれられるため
- 葬儀や法事等の儀式など、国や地方自治体が賄いきれない公共サービスや公益活動を行っている
- 災害時の集合場所など、社会福祉活動の役割を担っている
- 伝統文化の保護、継承の役割を担っている
免税理由は上記以外にも様々あるようですが、おおむね上記2つが主な理由であると考えるとよいでしょう。
事業者です。神社に対してお守りを販売したいのですが、どのように営業活動をしたらよいですか?
最後に変わった質問をご紹介します。
私は経営コンサルタントでもあるので、事業者の方と接する機会が多々あります。その中で、神社に対して営業をかけたいと考える方もいらっしゃいます。確かに神社の数は多いですし、自社の商品が神社に採用されたとなると、宣伝効果もありそうです。
このようなご質問への回答は結構難しいのですが、神社側からすると「あなたの会社の商品を扱うメリットは何なのか?」と、まず思ってしまいます。
お守りを例にすると、すでに制作している会社は全国に多くあり、競合がたくさんある状態です。その中から、あなたの会社のお守りが選ばれる理由は当然必要になると思います。競合より優れているポイントがあれば採用されるかもしれないし、なければ採用する理由がないということです。
また、授与品はあくまで宗教的なものであって、実用性があるものではいけません。たとえばボールペンを「お守り」として頒布することは難しいのです。このような背景からも、授与品を差別化することが難しいのはお分かりいただけると思います。
そのような状況で、ではどうするか。モノで差別化できないのであれば、ヒトで差別化するのです。
神社は人とのご縁を大切にする場所です。その神社を管理されている神職さんと関係を築くことができれば、あなたの会社の商品に関心を持ってくれるかもしれません。同じ地域の氏神神社であれば、話を聞いてもらいやすいでしょう。
神社に奉仕している神職の日常が少しは見えてきたでしょうか。もし周りで「お寺と神社の違いが分からない」という声が聞こえてきたら、ぜひみなさんからもその違いを説明をしてみてもらえると嬉しいです。
少なくとも、神社とお寺の違いについては理解を深めたうえで、お参りに行ってほしいと思っています。
石井 里幸(いしい さとゆき)
中小企業診断士。ITコンサルタントとして、ウェブマーケティングおよびIT活用支援を専門としている。
また、社家の出身ではないが神職資格を持ち、神職としても活動。中小企業の支援を通じて得たノウハウと神職での実務経験を活かし、神社に対しても支援活動を行っている。
寄稿:石井里幸(神職・中小企業診断士)
編集:大沼芙実子
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