意図的に間違った情報を与えたり嫌がらせを繰り返すことで、次第に被害者自身が自分を信じられないようにする「ガスライティング」という行為がある。精神的DVの1つとして認識が広がっている。この記事ではガスライティングの定義や仕返しのリスク、予防法などを紹介する。
ガスライティングとは
そもそもガスライティングとはどんなものを指すのだろうか。ガスライティングの定義と手法例を紹介する。
ガスライティングの定義
ガスライティングとは、相手の認識を歪めることや、被害者が不利な状況に陥りやすい環境を作ることで心理的にコントロールしようとする行為を指す。ガスライティングは法的に違法とは明言されていないが、ハラスメントや精神的虐待と結びついた行為として問題視されている。
ガスライティングの特徴として、加害者の巧妙な手口により、被害者が自分の感覚を信じられなくなることが挙げられる。例えば、加害者が「そんなこと言った覚えはない」と事実を否定したり、「あなたの記憶違いだ」と被害者の認識を疑わせる。
ガスライティングの手法例
ガスライティングには様々な手法があるが、代表的なものとして以下のようなものが挙げられる。
- 嘘:加害者が嘘をつくことで、被害者の現実認識を歪める
- 情報を隠す:加害者が重要な情報を隠すことで、被害者は正しい判断をできなくなる
- 矛盾した言動:加害者が矛盾した言動をとることで、被害者を混乱させる
- 記憶や感情の否定:加害者が被害者の記憶や感情を否定することで、被害者の自信を失わせる
- 被害者の孤立:被害者と周囲の関係性を断ち、孤立させることで、被害者が助けを求められなくなる
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ガスライティングの仕返しの必要性と問題点
ガスライティングの被害に遭った場合、仕返しをしたいと考える人もいるかもしれない。不当な扱いへの怒りや悔しさを感じることは自然な反応だろう。しかし、仕返しにはリスクもあるため、対処法は慎重に考える必要がある。
仕返しの問題点
ガスライティングをされた時、何らかの仕返しをすることで自尊心を回復したいと考えることがあるだろう。しかし、だからと言って暴力的な報復をすることは、倫理的にも法的にも大きな問題がある。例えば下記のような問題があるだろう。
- 関係性の悪化:仕返しによって、加害者とのさらなる対立や無用な争いを引き起こす可能性がある
- 法的トラブル:仕返しの内容によっては、法的な問題に発展する恐れがある
- 悪循環:仕返しをすることで、自分自身も加害者と同じような存在になってしまう危険性がある
一時的な感情に任せた行動は、長期的に見れば自分自身を傷つけることになりかねないのだ。ガスライティングのような複雑な問題に対しては、感情的な反応ではなく、冷静で理性的なアプローチが必要だろう。
仕返しに代わる建設的な対処法
感情的な仕返しをする代わりに、問題解決に向けて冷静かつ建設的なアプローチを取ることが重要だ。建設的なアプローチの例としては、以下のようなものが挙げられる。
- 支援を求める:信頼できる友人や専門家に相談し、問題解決のための助言を求める
- 距離を置く:加害者との接触を避け、自分の安全と平穏を確保する
- 法的措置を検討する:必要に応じて、法的措置を検討する
- 自己理解を深める:ガスライティングの影響や現状を正しく理解し、相手に飲まれないよう、自分の感情をコントロールする
ガスライティングは、自分一人で対処するのが難しい場合も多々ある。適切に周囲の知人や専門家を頼り、慎重に向き合う必要があるだろう。相談先の例として、DV相談ナビ#8008、DV相談+(プラス)などがある。
ガスライティングの仕返しをしないために
ガスライティングの被害に遭った場合、建設的な対応が望ましいことはすでに述べたとおりだ。では、実際にそのような対応をするために、どんな行動を取ればよいのだろうか?さらに詳しく紹介する。
加害者との関係性を観察・記録
精神的暴力の被害者は、被害を受けていること自体を自覚するのが難しいという側面がある。そのため第三者の視点から見た加害者と自身の関係がどうなのか確認することは重要だ。ガスライティングを受けている間は適切な判断が自分ではできなくなっている可能性もあるため。知人や友人などに聞いてみるのもよいだろう。
また、加害者の言動を記録することも効果的だ。暴力的な言動によりその場では冷静に判断できなかったとしても、後から読み返すことで、自身が不当な扱いを受けていることがわかる場合もあるだろう。また、このような記録は専門家への相談時に、自身の被害を説明する資料にもなる。
加害者と距離を置く、関係を断つ
コミュニケーションの工夫を試みても状況が改善されない場合、物理的・精神的に距離を置くことも大切な選択肢の1つだ。有害な関係から自分を守るために、一時的または永続的に距離を取る勇気も必要だろう。
距離を置く際は、信頼できる友人や家族、専門家などのサポートを得ることをおすすめする。身近に頼れる人がいない場合、「配偶者暴力相談支援センター」などのシェルターを頼るのもよいだろう。距離を置くことは、問題から逃げることではなく、自身を守るための重要な選択だと言える。
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ガスライティングを予防する方法
ここまで、対処法を紹介してきたが、被害・加害が発生する前に予防できるのがベストだろう。最後に、ガスライティングの予防法を紹介する。
健全な人間関係の構築
ガスライティングの発生を未然に防ぐためには、健全な人間関係を築くことが何より重要だ。健全な人間関係を築くためのポイントとして、以下のようなものが挙げられる。
- 自分の価値観や境界線を明確にする:自分にとって大切なものは何か、どこまでなら許容できるのかを明確にする
- オープンなコミュニケーションを心がける:率直に自分の思いを伝え、相手の意見にも耳を傾ける
- 相手の人格を尊重する:相手を1人の人間として尊重し、不当な扱いは避ける
- 必要に応じて「ノー」と言う:自分の価値観や境界線を侵害する要求には、毅然とした態度で拒否する
健全な人間関係は、ガスライティングを予防するための土台となる。日頃から、自分自身と周囲の人々との良好な関係性を築くことが大切だ。
ガスライティングの理解と早期の相談
また、ガスライティングの手口や影響について理解を深めておくことも重要だ。ガスライティングの早期発見と対処のために、以下のような行動ができるだろう。
- ガスライティングの手口を知る:典型的なガスライティングの手口を理解し、それに該当する言動を受けていないか・していないかを注意する
- 自分の感情を大切にする:違和感を抱いたり、不安を感じたりしたら、それを無視せずに向き合う
- 1人で抱え込まない:周囲の信頼できる人や専門家に相談し、客観的な意見を聞く
ガスライティングは巧妙で複雑な問題だが、正しい理解と適切な対処によって、その被害を最小限に抑えることができるだろう。
自己肯定感の育成
さらに、自分自身を肯定する姿勢もガスライティングの予防には効果的だ。自己肯定感を高め、被害に対処するためのポイントとして、以下のようなものが挙げられる。
- 自分の長所や達成感を認識する:自分の良い点や成し遂げたことを意識的に振り返る
- セルフケアを大切にする:十分な睡眠、バランスの取れた食事、適度な運動など、心身の健康を維持する
- リラックス法を身につける:深呼吸やマインドフルネスなど、ストレス緩和のための技法を習得する
- 自分の感情を受け止める:ネガティブな感情も含めて、自分の感情を大切にし、それを適切に表現する方法を学ぶ
自分自身を大切にし、自己肯定感を持つことは、ガスライティングを予防するための基盤となる。
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まとめ
ガスライティングは、被害者の現実認識を歪め、心に大きなダメージを与える深刻な問題だ。しかし、無理な報復にはリスクがあるため、冷静に愕然とした態度で対処することが大切だ。被害者だけでは対処できない場合もあるため、時には周囲がサポートすることも必要だろう。
また、日々の行動からガスライティングを予防することもできる。日常的に周囲と良好な関係性を築くことや、自身のケアを怠らないことで、ガスライティングの被害を防止できるだろう。
文:武田大貴
編集:吉岡葵