中学生の頃から芝居の世界に入り、現在映画やドラマ、舞台まで幅広い場で演技を続ける佐藤玲。2023年からは俳優としてだけでなくプロデュース業として作品づくりに関わったり、ワークショップを企画したりと、さらに演劇の輪を繋ぐ活動を広げている。『あしたメディア』では、現在ロンドンに短期留学中の彼女からレポートを寄せてもらうことにした。
この連載では、彼女の真っ直ぐな目線を通して見えてきたロンドンの現状をもとに、その背景を紐解き、社会との繋がりや、日本との違いについても考えていく。この旅が人生のターニングポイントと語る彼女の等身大な姿も、同時にレポートする。
イギリスまでの道のり
前回はあれこれと書き綴りましたが、今回からはパキッと切り替えてロンドンでの生活について書いていきます!第2回目となる今回は、【交通】をメインにお話ししていきたいと思います。
11月初旬、イギリス・ヒースロー空港に到着。
・飛行機
乗り慣れない飛行機に大苦戦しました。
国際線の利用は今回が2回目!1回目は7、8年ほど前に台湾へ行ったきり。また、仕事で行ったのでバタバタしていた記憶しかなく、今回の渡英が初めてと言っても過言ではありません。飛行機に乗っている時間も全然これまでと違いますし、初のトランジットにも悪戦苦闘しつつ、なんとかヒースロー空港に到着しました。トランジットが50分というチケットの記載にヒヤヒヤしつつも、なんとか達成したりとバタバタの連続でした。
・エリザベスライン
さて、ヒースロー空港からエリザベスラインという電車に乗っていわゆる都心部に近いパディントン駅まで行きます。エリザベスラインは2022年に運行がスタートした最新の電車だそうです(それまでも路線としては存在していたが、路線の拡大なども行い、運行再開が2022年ということだそう)。こちらは地上を走る電車で、車窓から見える街並みの変化を楽しみました。また、Wi-Fiも完備してあり、便利で驚きました。
・TUBE(チューブ)
さて、乗り換えて今度は地下鉄に。
地下鉄はカマボコのような形。車内はかなり狭くて、日本の電車に例えるなら、1番近いのは都営大江戸線でしょうか。ロンドンの地下鉄はチューブのようなところを走ることからTUBEという愛称で親しまれていることは聞いたことがある人もいるかもしれません。街中でTUBEのロゴのついたトレーナーが売っていたりするほどロンドンのトレードマークになっているようです。こちらの地下鉄は、その後の移動手段としてもよく利用することになりました。
TUBEと日本の地下鉄の違い
このTUBEで、日本の地下鉄との違いをいくつか経験することとなりました。
まず驚いたのは、エスカレーターの速さです。
え、そこ?と思うかもしれませんが、日本よりもかなり速い!!!都内でも主要駅のエスカレーターは人の流れを早くするために少し速めに設定されているところもあると思うのですが、それよりも断然速いので、もしロンドンへお越しになる場合にはお気をつけくださいませ。
また、バリアフリーの観点では日本よりは体制が整っていないように見受けられる部分もありました。ある時、駅のホームから地上に出るまでのエレベーターの全てが使えないことがありました。私は大荷物を抱えていただけだったので何とかして運びましたが、赤ちゃんと小さなお子さんの手を引いてベビーカーを押していたお母さんが(もちろん荷物も大きい)仕方なく迂回しようとしていました。
ホームに駅員がいるわけでも無いし、エスカレーターは速い&長いので、赤ちゃんと小さな子を連れてベビーカーを押して乗ることもできません。お声がけしたものの「大丈夫なんとかするわ、あなたも頑張って」という返答だったので、心配しながらも自分も必死で階段を上がりました。駅員に連絡がつながる通話ボタンもあるようでしたが、今のところそれを利用しようとしている方を見かけたことが無いので、なかなか使用頻度は低そうです。
ちなみに、そのような課題を改善すべく、電車内の電子掲示板に、停車駅が車椅子対応しているかどうかを表示するなどの取り組みもあるそうです。そうはいっても、降りたい駅が対応していないとなると、やはり不便といえるかもしれません。
バリアフリーや、お客様対応サービスなど、もちろん日本もまだまだ改善点はあるのだと思いますが、日本の丁寧さを改めて感じる出来事でした。
また、入口付近に溜まらず、車両の奥に詰める、という日本では暗黙の了解もイギリスでは乗る人の采配と言いますか…気がつく人もいれば、出入口付近から動かない人もいます(日本でもそういう人もいるといえばそうですが)。
日本の電車のように乗り口が大きいのであればまだ乗降者がスムーズに降りることができますが、ドアのサイズが日本の新幹線のドアのサイズと同じことが多いことと、電車自体がかなり小さめのつくりになっているので、降りるのにも、乗り込むのも容易とはいえません。
日本と違うと感じた点は他にもありました。
1.発車する時のアナウンスや音楽がないので、いきなりドアが閉まりびっくりする
2.携帯で動画を見るときに、音量を小さくするという文化があまり無い(もちろん人による)
3.ホームで並ぶという感覚があまりない、そもそもドアがどこなのかの目印もないので並びようがない
4.駅の出口の表示が日本ほど多くなく、わかりづらい
5.いろんな種類の広告があるが、駅構内では舞台や映画のポスターがよく貼ってあり、日本の倍ほどある印象
日本でも電車(や交通全般)にまつわるトラブルがありますよね。文化に根ざした違いがあるため一概に何が正解ということではないけれど、一番に言えることは周囲に配慮することの重要性かなと思います。設備に関して改善していくべき点もあるかもしれませんが、利用者側も多くの人が快適に、気持ちよく過ごせるように留意することを大切にしたいなと改めて感じました。
またこちらに住んでいる方に聞いた話だと、遅延や運行休止なども時々あるようです。ただ、日本と変わらず数分おきに電車がくる路線も多くあり、移動手段として基本的には安定感があります。
ここまでいろんな違いを述べてきましたが、最たる違いは、改札口と運賃です。
まずは改札口から。
紙のチケットか、日本のICカード(SuicaやPASMOなど)と似たシステムの「oyster」というカードがあり、それを利用することができます。
日本の違いとしては、oysterカードでなくとも、タッチ決済のクレジットカードや携帯のクレジットカードでタッチ決済が可能であればそれをかざすだけで改札口を通ることができます。oysterカードと、タッチ決済での運賃は同じ金額です。
そして運賃については非常にややこしいので、今までまともにチェックできていません。
ざっくりまとめると、エリアごとにゾーンが区切られており、移動した分のチケット代が必要となるということです。また、需要に併せて乗車料金が変わるシステムもあり、平日の一定の時間はほんの少し乗車賃が値上がりします。また、1日乗車券などもある上に、oysterを所持していると運賃の上限が設けられています。ぜひ、気になる人はこちらのHPから運賃表をご覧になってみてください。
どうですか?若干…いや、なかなか、ややこしいのです。そうなると、私のように移動のために必要だからと乗るしか無い場合において、値段を理解せずに乗り降りすることになります。
ただ、こちらのHP以外にも運賃の計算や乗り換え案内のアプリやHPなども充実しているようなので、毎日利用される場合にはそちらをダウンロードするのが便利そうです。私は、Googleマップを利用して乗り換えなどのルート案内をチェックしています(運賃は表示されません)。
そのほか公共交通機関での発見
・犬と一緒に乗車
ロンドンでは公共交通機関に犬と一緒に乗車することができます。私も何度か見かけました。条件などもあるようですが、ヨーロッパ含めて多くの国で犬と一緒に乗車できるということは素敵なことだなと思います。
もちろんアレルギーをお持ちの方などもいるので、何もかもOKということでは無いと思うのですが(食料品店ではあまり見ない)、多くのお店や交通手段で見かけるたびに、これは日本には無い文化だなと感じています。
・車道
自動車は右側通行なので日本と同じです。そもそも日本の交通はイギリスを模しているとも言われていますよね。標識なども非常によく似たデザインが多いようです。また、車道を見てみると、自動車の他に自転車のレーンも設けられていることが多くあります。自転車ユーザーもかなり多い印象があります。
歩行者の信号は青になってから赤になるまでの時間が非常に短いこともありますが、まわりの交通状況を見ながら赤信号でも渡る方が多そうです。信号無視ということですのでもちろんおすすめはしません。ただ、信号無視は当たり前、という風潮を感じる、というのが実際のところの肌感かなと思います。
・バス
ロンドンといえば2階建てのバス!というほど象徴的な乗り物ですよね。屋根のない2階建てバスもありますし、全て屋根に覆われたものもあります。私は今のところ、二階部分に上がったことはありません。車内は日本よりも縦にかなり長く大きく、高さもあるのですが、幅はほんの少し狭いように感じます。
ロンドンの街中で、比較的狭い道もあるからかもしれません。車内には座席が多く、優先エリアが設けられています。優先エリアには最初から座席はなく、ベビーカーや車椅子の方などが乗車するスペースとなっているようです。
降りる時にはストップボタンを押す、というのは日本と同じですが、ボタンがちゃんと鳴ったかどうかが聞こえないほど、音は小さめ・人々はガヤガヤ・運転荒め、という感じでした。私は乗り物酔いしやすい体質ということもあり、バスでの移動は向いていなさそうです…。ただ、街並みを眺めながら移動するだけでも楽しいという観光的な利点があり、やはり街並みの雰囲気の良さが大きく影響しているなと感じています。
あ!あとはたまに警察の警備などで、馬や馬車を見かけます。これは日本にはなかなか無い文化かなと思います。長い隊列などで警官の乗った馬が何頭も通ったり馬車が走り抜けていくと圧巻です。たまに、フンも落ちていますが!
異文化の発見から感じること
今回は【交通】という観点から、ロンドンの特徴や日本の違いについて、レポートしてみました。書いてみると何ということでもない内容なのですが、日本と違う部分があると、どんな些細なことでも新鮮に感じますね。楽しい発見もあれば、びっくりするようなこともあります。その発見から、それぞれがどうなれば良いのだろうと考えることも大切だなと思います。
そして、自分の考えを自分で人に説明できるほど理解し、他者と意見交換することも同じくらい大切にしたいですよね。自分の中で消化するだけではなく、さらに社会を少し良くするためには次の行動に移すことも重要だと思います。
これはとても難しいことで、自分の思う正義を振りかざせばそれが正解というわけではありません。自分のこの考えは、社会全体においてどの立ち位置にあるのかを客観的に捉えて感情とできるだけ切り離し、勇気を持って提案していくこと。他者の意見と自分の意見をその度に照らし合わせてみること。何か新しい課題が見えてきたとき、まず実践、という勇気も素晴らしいことだと思うと同時に、そこに他者が存在するのであれば、ひと呼吸おいて考える時間を設けてみるのも良いかもしれません。
これもきっと慣れなのかなとも思っていますが、どんなこともまずは楽しんでいけたら良いなと思っているところです。
次回も、生活にまつわることについて書いていこうと思います!
どうぞお楽しみに。
佐藤 玲
俳優・プロデューサー
1992年7月10日東京都生まれ。15歳より劇団で演劇を始める。日本大学芸術学部演劇学科在学時に故・蜷川幸雄氏の「さいたまネクスト・シアター」に入団し、演劇『日の浦姫物語』でデビュー。演劇『彼らもまた、わが息子』(桐山知也)などに出演。また出演ドラマとして『エール』(NHK)『架空OL日記』(読売テレビ)、出演映画に『夜空はいつでも最高密度の青色だ』(石井裕也)『死刑にいたる病』(白石和彌)『チェリまほTHE MOVIE』(風間太樹)などがある。2023年3月 株式会社R Plays Companyを設立。初プロデュース作品『スターライドオーダー』(北野貴章)を上演。現在、出演ドラマ『30までにとうるさくて』(ABEMA)がNetflixで配信中。
文:佐藤玲
編集:conomi matsuura