よりよい未来の話をしよう

アオイヤマダさんインタビュー【連載 歩み始める人々へ】

学生から社会人へ、その変化のタイミングは人それぞれ。けれどどんな形でも、はじまりの季節は希望と不安に満ちていて、何か拠りどころが必要だと感じる瞬間も少なくないのでは。そこで、あしたメディアから新たに歩みを始めるみなさんへ、この春に新社会人となった人も多いであろう2000年度生まれであり、ひと足早く社会に出て活躍されている方々のインタビューを連載でお届け。同じ時代を生きる同世代の姿から、明日の力が湧いてくるような、あるいは明日は少し立ち止まってゆっくり自分と向き合ってみようと思えるような、ストーリーとメッセージが感じられますように。

第2回目に登場してくれるのはアオイヤマダさん。表現者として、ダンスパフォーマンス、振り付け、映像や舞台でのお芝居、楽曲制作、ファッションモデルなど、幅広い活動をする彼女は、日々どのようなことを意識しているのか。

自然体でいること、「ここで生きているぞ!」と叫ぶこと

アオイさんは幼少期にダンスを始められたそうですが、どんなきっかけで表現の世界に入られたのですか?

アオイ:ダンスを専門的に学べる高校に入学すると同時に上京したのが転機の1つです。その後、今のマネージャーであるOi-chanにInstagramでスカウトしてもらって仕事を始めました。Oi-chanからの紹介もあって、90年代のアンダーグラウンドカルチャーや山口小夜子さんの存在を知ったのも自分にとって大きかったと思います。それまでは既存の職業でやりたいことがなかったのですが、踊りを使って表現できることが思っていた以上にあるのだと気づくきっかけになりました。

ダンスを続けていても、ダンサーになりたいとは思っていなかったのでしょうか。

アオイ:もちろんずっと踊っていけたらいいなとは思っていたけれど、自分が表現したいことはダンスだけではなくて、絵を描くことやファッションも好きなので、そういう意味で職業としてやりたいことがなかったんです。

あとはその頃から食にも興味を持っていました。踊っていると毎日自分の体に向き合うんですよね。生活が不規則になりがちなアーティストで在りながら、どうしたら自分を保てるのか考えたときに、食の勉強をしたいと思いました。仕事でご一緒したスタイリストさんに紹介してもらった料理教室があって、高校3年生の後半はその方のお宅に住まわせてもらいながら料理の勉強をしました。

東京で出会った人々によって自分の表現の幅が広がった感覚があります。もともと上京を決めた背景にもそれまでの自分を変えたいという思いがあったのですが、自分が1人で努力したというより、自分で環境を変えたことをきっかけに、周りが私を変えてくれたと思いますね。

それこそNetflixドラマ『First Love 初恋』に出演したのも、居候していた料理教室に満島ひかりさんがよくご飯を食べに来ていたのがきっかけでした。ダンスをやっている子を探していたそうで「あなたを探していたのよ」と言ってくれて、私をお芝居の世界に連れて行ってくれたんです。

出会いに導かれてきた部分もあるんですね。お仕事のなかで、年齢やキャリアを重ねた方や背景や価値観が異なる方と出会う機会も多いのではないかと思います。人とコミュニケーションを取るうえで大切にしていることはありますか?

アオイ:1つはこちらが取り繕っていると相手も取り繕ってしまうと思うので、自然体でいたいと思っています。もともとすごく人見知りなので難しいんだけど、なるべく自然体でいられるように意識していますね。

あとは動物的な勘を信じること。動物だったらまず相手が敵か味方か判断するじゃないですか。その奥を考えられるのが人間の特徴だけど、まずは勘を信じてみる。やっぱりなんとなく生きていると、特に東京で生活しながらお仕事をしていると、人と情報とやることがたくさんあって感覚が鈍ってしまいます。だからこそ意識して、ピンとくるかどうかを大切にしています。

アオイさんの表現を拝見すると、すごく自由でいつでも存在が際立っているように感じますが、立ち止まってしまうようなときもあるのでしょうか。

アオイ:ありますね。たとえば漠然と、自分がどんな表現をしたら世の中の役に立つことができるんだろうと考えます。自分はお医者さんでもないし、何かものを作れるわけでもなくて、踊っているだけだな、とふと思うことがあるんです。

でも、役に立つか立たないか、二者択一で考えること自体が違うのかなとも思うんですよね。もっと人間の根本的なものに立ち返られるようなパフォーマンスをする、私がここで生きているぞって叫ぶことで、見てくれる人がいつもと違うことを考えたり、何かに気づいたりするフックになったらいいと思っています。

 

目の前のことに反応する、面白くなる余地を探す

アオイさんの表現は多岐にわたると思います。カメラの前でパフォーマンスする場合、観客の前でパフォーマンスする場合、1人で表現する場合、人と一緒に表現する場合……。さまざま形があるなかで共通している感覚はありますか?

アオイ:オリンピックの閉会式でのパフォーマンスも、小規模なイベントでのパフォーマンスも、心の持ち方は同じで、緊張感の差もほとんどないんです。でも、共通して意識しているのは、コミュニケーションすることでしょうか。たとえば今こうしてインタビュー中だけど、質問項目をそのまま読むんじゃなくて、私の言葉に対してアレンジしてくれるじゃないですか。それと一緒だと思うんですけど、やっぱりこういうコミュニケーションがないとつまらないですよね。

だから、カメラを向けられているにしろ、お客さんの前に立つにしろ、目の前のことに反応するように心掛けています。それはお芝居も一緒で、満島ひかりさんからも「相手の温度感にちゃんと反応しないと」と教えていただきました。どんな形式の表現をするときも、「苦手な食材はありますか?」「じゃあパクチー抜いときますね」みたいな感じです。

その場や相手に反応していくのがアオイさんの表現のキーなのかと感じました。パフォーマンスにおける演出などの決まりごとがあるなかでもその時々の反応を大切にする、そのバランス感が気になります。

アオイ:小さい頃から頭のなかにはいつも反発心や疑問があって、今もその延長にいる気がします。ルールがあるなかでも隙間に自由を探す、感じたことは大声で叫んでみる、というような。たとえば、学校って規則が多いじゃないですか。私が通っていた中学校は靴も髪型も指定がありました。でも「雨の日はそれぞれ自分の長靴を履いていいですよ」と言われて、「長靴とは?」と思ったので高い厚底の靴を履いて登校しました。ほかにも「男子ツーブロック禁止」という校則があったので、「では女子は?」と思って、髪の毛の3分の2を刈り上げたこともありましたね。

仕事に対する姿勢でも結構そういうところがあるんです。もちろん全部に反発するわけじゃないけれど、「こういうのはどうですか?」と、より面白くなるような提案をします。どんな仕事に対してもそうやってプラスアルファになる自分の考えを提案すると、そこからコミュニケーションが生まれますよね。

2年前に地元・長野県松本市の成人式でパフォーマンスしたときも、お祝いの日なのにかしこまって長々と人の話を聞くような成人式には面白くできる余地がたくさんあるなと思ったので、突然出てきて、演説して、踊り出して、脱いで叫んで会場のど真ん中を走っていくのはどうだろう!と。真剣に、Oi-chanと相談しながら(笑)。

www.instagram.com

人間として、人間と丁寧に関わる

SNSなどでのアオイさんの発信を拝見すると、演者だけでなく裏方のスタッフさんのこともよく意識しているのだと感じます。

アオイ:結果として表に出るのは演者だけど、その裏で動いている人がたくさんいることはすごく意識しています。なんで私しか表に出てないんだろうと思いますね。みんなの名前をもっと前面に出してほしいし、感謝してもしきれません。演者は特別な生き物のようにたたえられることもあるけど、みんな同じ人間ですからね。だからフラットに、人間としてどう関わっていくのかを考えたいと思っています。著名な方と会うときも、その方自身もあまりに「上」に見られても苦しいんじゃないかと思うので、人間同士として接するようにしています。

あるとき、パフォーマンスを観に来てくれた6歳くらいの女の子が「はじめての気持ちになりました。ありがとう」ってお手紙をくれたことがあって。おそらく私がどんな作品に出ているかよく知らない小さな子がそう言ってくれたことで、やっぱりそういうことが大切なのだとあらためて思いました。経歴や過去にとらわれず、正面から自分がどう感じるのかを伝え合うって、すごく素敵なことですよね。忙しくていっぱいいっぱいになると時々忘れてしまうんですけど、そういうときは交換した手紙をふと見返して、という繰り返しです。

やはり働いていると、そのように忙しさから大切なことを見失いそうになる場面もあると思います。アオイさんは「社会人」や「仕事」というものをどのように考えていますか?

アオイ:生きていくって社会との関わりの積み重ねで、人とのつながりも増えていくじゃないですか。そのなかで社交辞令のようなものも増えていくけれど、それも決して悪いことじゃないと思います。自分1人でいて生まれてくる感情は少ないと思うので、他者との関わりのなかでいろいろなものが蓄積していくのが「社会人」だと思いますね。仕事も結局、他者がいて、人間と人間の出会いのなかで生まれますよね。

上京して踊ることがお仕事になってから、それまでの在り方となにか変化はありましたか?

アオイ:変わらなかったから、続けられていると思います。もちろん学んだり反省したりする部分はあるけれど、それまでの延長でした。

仕事か家族旅行かだったら旅行を取りたいタイプなんですよね。限られた自分の人生の時間をどう使うのかよく考えています。いいのかわからないけど、天秤にかけてどっちの時間を優先したいかな、そこにお金が発生したらどうかな、と。

お仕事の性質上、毎日さまざまな現場に行って、新しい出会いも多いのではないかと思います。環境の変化をどう捉えていらっしゃるのでしょう。

アオイ:変化を好んでいるので、この仕事は天職だと思います。ただその反面、臆病な部分もあるんです。なるべく外に出たくない自分と、外に出て色々な人に出会いたいと思う自分と、二極の自分がいると思います。でもそんな変化に尻込みする自分も、表現につながっているかもしれません。自分が臆病だからこそ、そういう人にはどういうアプローチをしたらいいのか、自分に置き換えて考えているような気がします。たとえば、ぐいっと引き込むだけでなく、気づいたら入り込んでいるような世界をつくりたいな、などと意識してパフォーマンスすることがありますね。

パフォーマーとしてのみならず、演出家のような目も持ってらっしゃるんですね。

アオイ:自分ではまだあまり意識していないですけど、やっぱり体を使って踊るのは限度があるようで、周りの人からも痛いところが出てくるといった話を聞きます。そうなったときにアウトプットを色々なものに変えたいから、演出や監督をやってみるのも楽しそうだなと思いますね。

今後、ほかにも挑戦したいことはありますか?

アオイ:世界を見たいです。すでに大きなパフォーマンスをしているように見えるかもしれないけれど、実は日本に閉じこもってるというか、日本から出ることを恐れている部分があります。でも世界を走り回ったらどうなるんだろう!と思うので、コロナ禍から開放されてきた今、ダンスを使って世界にも表現を広げていけたらいいなと思います。

今後のご活躍もとても楽しみです。最後に、春から新たな環境に踏み出し始めた同世代に向けて、メッセージをお願いします。

アオイ:「みんな人生はじめまして!」これは私自身、悩んだら自分に言い聞かせる言葉です。もちろん長く生きている人はそれだけの経験があるからさまざまな考えを持っているけど、その人だって人生は「はじめまして」なので、思い詰めずに自分を信じてほしいです。

固定観念に縛られず、目の前で起こる出来事や関わる人々、その場の空気感や自分の感情……さまざまなことに意識を向け、丁寧に反応するアオイさん。制約や、あるいはセオリーがある場面でも、1つ1つより面白くできるのではないかと考えて提案する姿勢は、どんな立場であっても見習える部分があるのではないか。また、パフォーマンスからのみならず、その在り方や考え方からも「人間の根本的なものに立ち返られる」ような気づきを与えてくれるアオイさんから、目が離せない。



アオイヤマダ
2000年生まれ。15歳で故郷の長野を離れ、東京でダンスを学んだことをきっかけに、90年代のクラブやアートシーンを起源とする東京のファッション界に出会い、影響を受ける。メディアアート集団ダムタイプの「2020」、東京オリンピック2020閉会式にソロ出演後、ファッション短編集「KAGUYA BY GUCCI」、Netflixシリーズ「First Love」などで俳優として出演。寺、古民家などの文化的な場所でのパフォーマンス、楽曲制作の他、自身の表現が、観客の感覚に変化のきっかけになると信じて幅広く活動している。

 

取材・文:日比楽那
編集:白鳥菜都
写真:服部芽生