よりよい未来の話をしよう

11月から東京都全域で導入。パートナーシップ宣誓制度を通じて考える結婚

2022年11月1日から、東京都でパートナーシップ宣誓制度が導入された。

筆者がそのニュースを見たのは2022年9月の自身の結婚に向け、事実婚について調べていた時だった。筆者とパートナーはお互いに「自分の苗字でいたい」という気持ちや、結婚にまつわる周囲との様々なやり取りを通じて、「いまは婚姻届は出さないことにしよう」と決めた。パートナーシップ宣誓制度について目にしたとき、「事実婚をする私たちにも使える制度かもしれない」と思い、調べ始めた。制度を利用することで法律婚を選択しない意思表示ができ、「手続きをすることで結婚の証明になるのでは」という算段だった。しかし、東京都のパートナーシップ宣誓制度の対象は同性カップルに限られ、異性カップルの私たちには利用できなかった。

苗字について調べながら感じていた「幸せというイメージとは裏腹な婚姻制度の不自由さ」への違和感は、パートナーシップ宣誓制度について調べるうち、さらに強まった。

「どうして愛する相手と穏やかに幸せに暮らしたいだけなのに、戸籍上の性別が同じだけで結婚を制限される人がいるんだろう」「パートナーシップ宣誓制度は事実婚のカップルが使用できないのはなぜなのか」「同性カップルの子どもを家族として証明してくれるものではないので、不便さが残るのではないか」……。

パートナーシップ宣誓制度は、どんな人を幸せにするのか。婚姻制度を補完することはできるのだろうか。

婚姻制度の現状

「結婚」を分解してみる

「結婚する」とはどのようなことだろうか。婚姻届を提出し、夫婦として“認め”られる。子どもを産んでともに育てることができる。私にとって「結婚する」という言葉から連想されるイメージはそのくらい曖昧だった。

法学者の山口真由さんは、著書で「結婚は、お互いに対する権利と義務の束であり、同時にそれに伴う無数の特典の集合体である」と述べる。「結婚」を分解してみると、複数の権利と義務が集まったものであるとわかる。それらの約束された権利や義務は抽象的なものでもロマンチックなものでもなく、日々の生活と強く結びついているものだ。「結婚」は漠然としたイメージで特別視される傾向があるが、それを具体的な権利や義務のリストまで分解してみて初めて、私たちは結婚の実益を理解できるという。(※1)

この山口さんの考えに沿って、実際に「結婚」が内包する約束のリストを分解してみる。

※1 引用・参考:山口真由『「ふつうの家族」にさようなら』KADOKAWA, p.107~110

結婚が保障する「当たり前」の権利

結婚は具体的にどのような権利や義務を保障するのか。婚姻届を提出した瞬間、以下のような権利が付与されるという。(※2)

まず、住民票に配偶者として記載される。同居し互いに協力する義務や、婚姻費用の分担義務が生じる。パートナーの名義で水道の契約や荷物の受取などの手続きを代理することができる。所得税や相続税の配偶者控除、扶養控除などの税金面でのメリットも受けることが出来る。DV防止法上の保護も適用される。

妊娠したら、夫が父親であると自動的に認められ、共同で親権を持つことになる。会社に申請すれば、パートナーの連れ子も含め子どもの傷病時には育児休暇を取得できる。

家を購入することになれば、住宅ローンを共同で組んで共有名義にすることができる。

パートナーが生命侵害を受けた場合には、第三者に対して損害賠償請求を行うことができ、またパートナーが逮捕されることがあれば、弁護人の選任権を持つ。

離婚した場合には、財産分与や慰謝料を請求できる。

パートナーが病気で入院した場合には「親族」として面会できるし、パートナーに対する医療行為への同意権が互いにある。パートナーの介護休暇を取得することもあるかもしれない。

パートナーが亡くなった場合には、葬儀に参列するだろう。残されたパートナーは財産を相続し、遺族年金や公的年金の一時死亡金、労災の遺族補償や遺族給付を受給することもできる。民間生命保険の死亡保険金を受け取る場合もある。

私自身、上記のどの権利や義務も「家族として当然」と思いながら生活してきた。ところが、このような権利を得られないカップルがいる。同性カップルや事実婚を選択した異性カップルだ。(事実婚カップルの場合は公正証書などで認められる場合もある)

※2参考: NPO法人 EMA日本「結婚による法律上の効果と根拠法の一覧」
http://emajapan.org/promssm/laws

日本の結婚制度は不平等さをはらむ

日本では、戸籍上の性別が同じ2名が結婚することは法律で認められていない。

国は婚姻の目的について「男性と女性が子を産み育てながら共同生活を送る関係に対し、特に法的保護を与えること」と説明している。そして、同性婚については「同性婚には男女の婚姻と同等の関係とみる社会的承認がないので同性婚を定めていないことに合理性がある」とし、同性婚を認めない姿勢を明らかにしている。(※3)岸田文雄首相も同性婚について「我が国の家族のあり方の根幹にかかわる問題で、極めて慎重な検討を要する」と述べており、国会での議論は進んでいない。(※4)

男女のカップルと同じように愛し合っていても、「戸籍上の性別が同じ」という理由だけで法律的に結婚が認められない。そして、それは同性カップルが「子どもを産み育てない」からだという。

平等な婚姻が法的に認められない結果、同性カップルには生活上の不利益が生じている。自身も同性愛者であり、パートナーと「なんもり法律事務所」を構える南和行弁護士は、以下のような問題について同性カップルからの相談を頻繁に受けるという。(※5)

まずは、相続だ。法律婚と異なり、パートナーが亡くなった時に相続をする権利が認められない。「パートナーに財産を残したい」と思った場合には公正証書による遺言を残す必要があり、費用もかかる。

また、同性カップルは不動産のローンを組むことや、購入した不動産を共有名義にすることも金融機関から拒否される場合が多い。贈与税を払って共有名義にすることはできるが、これも大きな負担となる。

パートナーが病気になった際に「家族でない」という理由で面会や情報提供が拒絶されたり、医療行為の同意ができないことがある。最も身近な家族であるにも関わらず、命にかかわる瞬間にそばにいることができない。

さらに、南弁護士本人も葛藤を抱えたのが「相手との関係を説明するのが難しい」ことだ。パートナーが病気の時も法律婚が保障する「妻」「夫」というような身分を表す言葉がないため「婚約者」として手助けをしたり会社に連絡をしたりできなかった。

ほかにも、同じ国で暮らす資格をもらえない、子どもを育てていても「赤の他人」になってしまう、日常の手続きの代理が認められないなど、男女の夫婦が法律婚によって当たり前に得られている様々な「利権」から、同性カップルは排除されている。(※6)

一方で、世論では婚姻の平等婚に賛成する人たちの存在感が高まっている。2021年3月に行われたNHK世論調査によると、同性婚に「どちらかといえば賛成」を合わせた「賛成」は全体の6割にのぼった。「誰にでも平等に結婚する権利がある」などと考えた人が8割近くだった。(※7)

※3 参考:平成31年 第3465号 国家賠償請求事件「被告第5準備書面」(令和3年10月22日)https://www.call4.jp/file/pdf/202202/7bb7a6f20e40611f5ec0b12483b0507f.pdf
※4 参考: 衆議院 会議録「第207回国会 本会議 第2号(令和3年12月8日(水曜日))」https://www.shugiin.go.jp/internet/itdb_kaigiroku.nsf/html/kaigiroku/000120720211208002.htm
※5 参考:南和行『同性婚ーー私たち弁護士夫夫です』祥伝社新書
※6 参考:Marriage for All Japan「どうして同性婚 法律婚・事実婚(異性間)・同性カップルの比較」https://www.marriageforall.jp/marriage-equality/
※7 参考:NHK「ジェンダーをこえて考えよう Vol.23 ジェンダー”社会の本音”は? NHK世論調査より①」(2021年7月1日)
https://www.nhk.or.jp/gendai/comment/0029/topic023.html

事実婚が法律婚に代わって選択されている

法律婚とは別の結婚の形として、最近増えてきた事実婚だとどうだろうか?

何かしらの理由によって結婚を選べない/選ばない異性カップルは、事実婚を選ぶ場合が多い。結婚すると夫婦同姓が強制されることへの違和感や親の反対などから結婚することができないなどの理由がある。筆者も「自分の苗字のままでいたい」と事実婚を選び、結婚したばかりだ。

事実婚の場合は、住民票に「妻(未届)」「夫(未届)」と記載して関係を証明する場合が多い。事実婚も婚姻届を提出しないため、法律婚のカップルが受けられる法的保護は受けられない。ただ、住民票など「婚姻関係にある」ことを証明する書類や公正証書による契約などによって、婚姻と類似した権利・義務が発生する項目もある。(※8)一方で、同性カップルは住民票に関係性を記載することもできないため、「事実婚」状態になることもできない。

※8 参照:阪井裕一郎『改訂新版 事実婚と夫婦別姓の社会学』白澤社

パートナーシップ宣誓制度とは何か

1人ひとりが自分らしくあるために、導入される東京都のパートナーシップ宣誓制度

同性カップルの権利に関する制度として、近年導入が増えてきたのがパートナーシップ宣誓制度だ。2015年には渋谷区と世田谷区が日本で初めてパートナーシップ宣誓制度を取り入れ、同性カップルへの証明書発行を開始した。これに続いて、東京都では2022年10月時点で10区6市で制度が導入されてきた。(※9)

東京都ではその流れを汲んで、2021年6月に都議会においてパートナーシップ宣誓制度創設に関する請願が趣旨採択された。そして、2022年6月15日に東京都議会で「パートナーシップ宣誓制度」を盛り込んだ人権尊重条例改正案が全会一致で可決された。(※10)すでに2022年10月11日から申請の受付が開始されている。

※9 参考:みんなのパートナーシップ制度「東京都全体でのパートナーシップ制度」(2022年10月15日閲覧)https://minnano-partnership.com/prefecture/%E6%9D%B1%E4%BA%AC%E9%83%BD
※10 参考:東京都総務局人権部「東京都パートナーシップ宣誓制度」https://www.soumu.metro.tokyo.lg.jp/10jinken/sesaku/sonchou/partnership.html

「パートナーシップ関係にあること」を証明するが、法的効果はない

東京都で導入されたパートナーシップ宣誓制度は、同性カップルのパートナーシップ関係を自治体が証明する制度だ。東京都は「パートナーシップ関係」を、「双方またはいずれか一方が性的マイノリティであり、人生のパートナーとして相互の人権を尊重し日常の生活において継続的に協力し合うことを約した2人の関係」と定義している。(※11)

東京都のパートナーシップ宣誓制度では、以下の条件を満たした者が証明を受けることができる。

  • パートナーシップ関係にあるという宣誓を行うこと
  • 2名が成年であり、配偶者・別のパートナーがいないこと、近親関係にないこと
  • 2名のうち少なくともいずれか1名が都内在住、在勤または在学であること

仕組みは以下のイメージ図の通りだ。カップルが宣誓と必要書類(上記の条件を満たすことの証明や本人確認書類など)を提出すると、東京都(ほか自治体)が受理証明書を交付する。これが「パートナーシップ証明」である。カップルがこの証明書を提示することで行政サービスや民間サービスを受けられるようになることが期待される。(※11)

画像出典:東京都総務局人権部「東京都パートナーシップ宣誓制度」https://www.soumu.metro.tokyo.lg.jp/10jinken/sesaku/sonchou/partnership.html

ただし、パートナーシップ宣誓制度は自治体ごとの条例や要綱などで定められるもので、上述したような結婚が保障する権利や義務を生む法律的な拘束力は一切ない。相続や財産分与などについては公正証書で別途定める必要があるし、そのほか住宅ローンや家族割などの権利は各事業者に委ねられている。

※11 参考:東京都総務局人権部「「東京都パートナーシップ宣誓制度」をよりよく知るためのハンドブック」https://www.soumu.metro.tokyo.lg.jp/10jinken/base/upload/item/handbook.pdf

交付までの手続きはオンラインで完結する

交付までの手続きは以下のイメージ図のとおりだ。東京都は全国で初めて、申請から発行までのすべての手続きをオンライン化した。「申請時に周囲に性的マイノリティであることを知られたくない」という当事者の懸念をカバーするためだという。(※11)

画像出典:東京都総務局人権部「「東京都パートナーシップ宣誓制度」をよりよく知るためのリーフレット」 https://www.soumu.metro.tokyo.lg.jp/10jinken/base/upload/item/leaflet.pdf

パートナーシップ宣誓制度は大きな「はじめの一歩」

上述したとおり、パートナーシップ証明は、法的効果は何も生まない。法律婚と同じ婚姻効果はないにもかかわらず、「婚姻の平等につながる第一歩」と喜びの声が上がるのはなぜか。

最も大きいのは「パートナーシップ関係にあることが証明できること」だろう。これまで同性カップルは自分たちの関係を公的に示すことができなかった。そのため「パートナーとの関係を周囲に話しにくい」という不便さを感じたり、公的に関係性を認められていないことから「ないことにされている」「存在するべきでない」と自身の存在を否定してしまう人も多かった。公的な結婚の証明がないからこそ、サービスを受ける権利が制限されていた面もあった。南弁護士は、パートナーシップ証明の存在について「行政が同性愛者含むLGBTや性的少数者が社会で生活している事実や当事者が偏見や差別に晒されている実情を認めたことに意義がある」という。(※6)社会に性的マイノリティ当事者の存在が認識されれば、周囲の接し方が変わり、当事者の安心感も増すかもしれない。婚姻届を提出し公的に認められることが「結婚」の大きな意味であるいまは、証明があることで家族の理解も促されるだろう。

また、民間企業へ対応を呼びかけたことにも意味がある。今回、都営住宅条例なども改正され、証明を受けたカップルは都営住宅への入居をはじめとした住宅サービスや医療・犯罪被害者等支援・福祉サービスが受けられるようになる。(※12)同時に、都は民間事業者へも証明書を活用できるよう働きかけを行う。同性カップルが享受できない権利の一部は、法律で定められているのではなく、民間企業がそれぞれサービスの対象に含めるかを決定している。そのため、都の呼びかけによって民間企業が性的マイノリティに対してもサービスを提供することが期待される。(※13)すでに複数企業が、受理証明書の提示でサービスを提供することを発表している。例えば、ソニー生命保険や第一生命保険では受取人に同性パートナーを指定することができるようになる。三井住友銀行では同性パートナー同士による連帯債務型借入ができる。(※14)社内の福利厚生制度で性的マイノリティのカップルを対象とする会社も増えるかもしれない。

これまでの制度が「在住者」を対象としていたのに対し、東京都のパートナーシップ宣誓制度は「東京都に通勤・通学する人」を対象とした。これにより、対象者が国内人口のカバー率は6割を超えたと推測される。

東京都は国政においても影響力がある。都での議論が始まり、今回の条例が全会一致で決定されたことは少なからず国会の議論にも影響を与えるだろう。

東京都でパートナーシップ宣誓制度が導入されたことは、国内の性的マイノリティの認識が高まり、将来的には平等な婚姻制度に賛成する人たちの政治への発言力につながる可能性も感じる。

とはいえ、東北地方や山陰地方などではパートナーシップ宣誓制度が導入されておらず、そのような自治体に住んでいるカップルは制度を利用できない。そのような現状に対し、民間で発行する「Famiee」というパートナーシップ証明書の運用が開始された。「Famiee」は利用者の居住場所にかかわらず、家族関係証明書を発行する。オンラインで手続きを完結し、緊急時にもスマートフォンの画面で証明が可能だ。(※15)

※12 参考:参考:東京都総務局「東京都パートナーシップ宣誓制度受理証明書等により利用可能となる施策・事業一覧(都事業等)」(令和4年10月31日)https://www.metro.tokyo.lg.jp/tosei/hodohappyo/press/2022/10/31/documents/21_02.pdf
※13 参考:NHK NEWS WEB 「小池知事 パートナーシップ宣誓制度の活用協力を呼びかけへ」(2022年6月7日)
https://www3.nhk.or.jp/shutoken-news/20220607/1000080715.html
※14 参考:東京都総務局「東京都パートナーシップ宣誓制度受理証明書等により利用可能となる施策・事業一覧(民間事業)」(令和4年10月31日)https://www.metro.tokyo.lg.jp/tosei/hodohappyo/press/2022/10/31/documents/21_04.pdf
※15 参考:Famieeホームページ
https://www.famiee.com/

「家族である」ことを証明する制度もある

2015年に日本で初めて同性パートナーシップ制度が導入されてから7年、導入自治体は増え続けており、2022年10月時点で237自治体が導入し、国内人口のカバー率は50%を超えている。(※16)パートナーシップ宣誓制度は自治体ごとに定めるため、自治体ごとにカラーがある。同性カップルに限らず、事実婚のパートナーやその家族を対象とするものもある。ここでは、ファミリーシップ制度を最初に導入した兵庫県明石市の例をあげる。

「パートナーシップ・ファミリーシップ制度」(兵庫県明石市)(※17)

明石市が2021年1月に導入したファミリーシップ制度は、対象が同性カップルだけではない。事実婚の異性カップルや子どもも「家族」として証明してくれる。性別を問わずパートナーに連れ子がいた場合に、「子どもの親である」という立場を周囲に示すことができる。家族で市営住宅に入居できたり、子どもの保育園の送り迎えができたり、同じ墓に入ったりすることも可能だ。兵庫県明石市から始まった同制度は、2022年10月時点ですでに30自治体で導入されている。

東京都のパートナーシップ宣誓制度は同性カップルのみを対象とするため、筆者自身は利用することはできなかった。しかし筆者は、ファミリーシップ制度や異性間の事実婚を含むパートナーシップ宣誓制度は、事実婚のカップルが直面する問題に対しても意味があると考えている。婚姻届を提出することが象徴的な中で、届けを提出しないことは「結婚した実感が湧くのか」「結婚を証明するものがない」と大きな不安要素だった。届けを出すこと自体が安心感につながるだろう。また、子どもが生まれた場合も「家族」として認識してもらうことができる。

※16 参考:みんなのパートナーシップ制度「データで見るパートナーシップ制度」
https://minnano-partnership.com/partnership/graph
※17 参考:明石市「明石市パートナーシップ・ファミリーシップ制度」https://www.city.akashi.lg.jp/seisaku/sdgs/partnershipfamilyship.html

海外における結婚制度

日本では同性婚が認められておらず、婚姻の平等が実現されていない。海外ではどれほどの国で同性カップルを含めた結婚を認める法律があるのだろうか。

20%の国で婚姻の平等が認められている

2022年10月時点で、同性婚や登録パートナーシップなど同性カップルの権利を保証する制度を持つ国・地域は33か国・約20%に及んでいる。(※18)G7では日本を除くすべての国で同性カップルのカップルも含めすべての人に結婚の自由がある。2019年にはアジアで初めて台湾が同性婚を法律で認めたほか、2022年9月にキューバで国民投票が行われ同性婚が保護されたことも記憶に新しい。

※18 参考:NPO法人 EMA日本ホームページ「世界の同性婚」
http://emajapan.org/promssm/world

法律婚と違う形で結婚の平等を実現する制度もある

法律婚と別の形の結婚制度が主流な国もある。

  • PACS(フランス)

PACS(Pacte Civil de Solidaritē)は日本語に訳すと民事連帯契約制度である。この契約は同性又は異性のカップルが安定した共同生活を持続的に営むために交わされる。1999年に、当時法律婚を認められていなかった同性カップルの身分や権利を保障するために導入された。複雑な手続きをせずに契約を締結でき、社会保険の保証金や出産や子供などの手当が受給できる。(※19)税制面、財産面でも法律婚と同等の権利が保障される。手続きの手軽さと結婚への価値観の変化から、現在フランスでは法律婚と同程度の利用者がいる。(※20)

  • コモンロー(カナダ)

コモンロー(Common-law Partner)は1年間以上ともに生活している異性又は同性のパートナーのことで、実態は日本の事実婚に近いといえる。1年間共同で生活を営んでいたことを証明すれば、法律婚とほぼ同等の権利を得ることができる。相続や財産分与のみ法律婚と異なる。(※21,22)1981年から2016年にかけてカナダ統計局が行った国勢調査によると、2016年時点で夫婦のうち20%程度がコモンローを選択していたという。(※23)

※19 一般財団法人 自治体国際化協会 パリ事務所 「コロナ禍で振り返るパートナーシップ制度「PACS」」https://www.clairparis.org/ja/clair-paris-blog-jp/blog-2020-jp/1441-pacs
※20 Insee 「Les Pacs presque aussi nombreux que les mariages」(2020年6月30日)https://www.insee.fr/fr/statistiques/4620661
※21 参考:Government of Canada「Determining membership: Spouse or common-law」https://www.canada.ca/en/immigration-refugees-citizenship/corporate/publications-manuals/operational-bulletins-manuals/permanent-residence/non-economic-classes/family-class-determining-spouse/assessing-common.html
※22 参考:Government of Canada「Pay and changes in your life」
https://www.tpsgc-pwgsc.gc.ca/remuneration-compensation/services-paye-pay-services/paye-information-pay/vie-life/conjoint-marriage-common-law-eng.html
※23 参考:Statistics Canada「Percentage of common-law unions,Canada, provinces and territories, 1981 and 2016」
https://www150.statcan.gc.ca/n1/daily-quotidien/170802/cg-a004-eng.htm

日本の婚姻の平等はどこまで来ているか

司法による解決を求め、訴訟が進行中

海外では婚姻の平等を達成するために様々な制度が作られているが、日本ではどこまで制度作りが進んでいるのだろうか。

  • 結婚の自由をすべての人に」訴訟が進行中

2019年2月14日のバレンタインデー。札幌・東京・名古屋・大阪で「同性間の婚姻を認めないことが憲法違反である」ことが提起された。現在はここに福岡も加わり、5地域で裁判が進行している。(※24)

筆者は2022年10月13日に行われた東京2次訴訟の原告意見陳述(※25)を傍聴した。原告の河智さんは、10歳の時に辞書で「同性愛は異常で、倒錯である」という言葉を見てから「フリ」をして仮面をかぶって生きてきたという。現在のパートナーである鳩貝さんと人生を共にする決断をしたときに最初にしたことは、遺言を書くことだったという。

「私たちはいたって普通のカップルで、デートで散歩をして木陰でお茶を飲む。同じブランドの服を着て、その姿があまりに互いに似ていて、『伴侶が似てくるのは性別を問わない』と感じる。季節を共に過ごし、互いに信頼し愛し合っている。それは男女のカップルと何ら違いがない。それなのに、大事な場面ほど不自由。どんな時も当たり前に共にいて家族として支え、財産を相手に残すという当たり前の幸せが、法の下に保障されているのは男女の家族だけで良いのか」

河智さんが語った言葉からは、パートナーを愛しく大切に想う1人のひとでありながら、「戸籍上、同性同士である」という理由だけで幸せが制限されてしまう悲痛さが伝わった。そして、「だれしも1年後どうなっているか分からない。自分自身も癌で、レズビアンの先輩も昨年亡くなった。裁判に何年もかけて良いとは思わない」と訴え、司法の早急な対応を求めた。

弁護士団は、「自然生殖により子どもを産み育てる意思のあるカップルのみ法的に保護しているのは実質と解釈が矛盾している」と反論した。国の「憲法24条1項『婚姻は両性の合意に基づく』が異性カップルを前提とし同性婚は認められない」という主張に対しては、「憲法の解釈は変化するもので、“両性”が必ずしも“子どもを産み育てる男女”という解釈ではない。これからの社会の指針となる解釈を示すべき」と述べた。また、パートナーシップ宣誓制度についても、国の「同制度の創設で不利益が緩和されている」との主張に対し、「パートナーシップ宣誓制度で婚姻効果は生じず、導入自治体も限られることから、結婚の代わりにはならない」との見解を述べた。「国は同性婚について議論する機能を果たすことができない」と司法による解決を強く求めた。

  • 札幌地裁は「同性婚を認めないのは違憲である」と判断

2021年3月、札幌地方裁判所は、同性婚を認めていないことは違憲であると述べた。この裁判では北海道に住む同性カップル3組が国に対して損害賠償を求めており、武田知子裁判長は、婚姻に伴う法的効果を同性カップルに認めないのは憲法14条に違反することを判示した。賠償請求は棄却されたものの、画期的な判決と受け止められた。(※26)

※24 参考:東京弁護士会『「結婚の自由をすべての人に」訴訟の現状と今後(2022年1月18日号)』https://www.toben.or.jp/know/iinkai/seibyoudou/column/2022118.html
※25 参考:CALL4「原告ら第11準備書面(法律上の同性間の婚姻制度がないことによる不利益等に関する書面)」
https://www.call4.jp/file/pdf/202210/52e8e89214a35c618d159ec5f5ded93b.pdf
※26 参考:日本経済新聞「同性婚認めないのは違憲、賠償請求は棄却 札幌地裁」(2021年3月17日)https://www.nikkei.com/article/DGXZQOHC170G50X10C21A3000000/

民間企業も平等な結婚へ「賛同」を示す

民間企業も不平等な結婚制度に対する姿勢を示し始めている。「Business for Marriage Equality」は婚姻の平等(同性婚の法制化)に賛同する企業を可視化させるキャンペーンだ。2022年10月13日時点で300の企業や団体がこのキャンペーンへの賛同を示している。(※27)

企業の内部でも同性パートナーがいる社員を、法律婚をしている社員と同様に扱う動きも出ている。KDDIは2013年から性的マイノリティの社員に対してワーキングネームの使用を認めるほか、2017年以降は祝い金や休暇などすべての制度を適用するようになった。2020年からは同性パートナーとの子を「家族」として扱うファミリーシップ申請も始めた。(※28)

LUSHジャパンは2023年の同性婚の法制化に賛同し、様々な取り組みをしている。婚姻関係にないパートナーを家族と認める「パートナー登録制度」を設け福利厚生の特別休暇を利用できるようにしたほか、性別適合手術も傷病休職も適用とした。また、「結婚の自由をすべての人に」というキャンペーンを2度にわたり実施した。婚姻の平等に関する情報を公開し、声を上げることの必要性を伝えた。(※29)

※27 参考:Business for Marriage Equality「企業による取り組み」
http://bformarriageequality.net/initiative/
※28 参考:KDDI「LGBTQに関する取り組み指標「PRIDE指標」の最高位「ゴールド」を5年連続で受賞~同性パートナーの子を社内制度上"家族"として扱う新制度がベストプラクティス賞を受賞~」https://news.kddi.com/kddi/corporate/topic/2020/11/19/4796.html
※29 参考:LUSHジャパン「結婚の自由をすべての人に」
https://weare.lush.com/jp/lush-life/our-ethics/lush_campaign/marriage-equality/

婚姻の平等を実現するために、私たちができること

ここまで、法律的な制度や企業の動きについて紹介してきたが、私たち個人が平等な婚姻制度の実現のために、何ができるのだろうか。

  • 署名する

Marriage for All Japanは「結婚の自由をすべての人に」訴訟を応援する署名活動を行っている。集まった署名は裁判所に提出され、同性婚の法制化に賛同する人がいることを証明する手助けのひとつとなる。

署名はこちら:MarriageForAllJapan - 結婚の自由をすべての人に

  • 裁判の傍聴に行く

「結婚の自由をすべての人に」訴訟は5自治体で継続されている。Marriage for All Japanのサイト(※30)では訴訟に関する情報が更新されている。裁判の傍聴に行くことは、「訴訟を応援している」というサポートや関心を示すことになる。

  • 「婚姻の平等」に賛成する国会議員を増やす

国会に議論をしてもらうため、また司法へ「国会が法律を変えないのは職務怠慢だ」ということを伝えるために、平等な婚姻制度に賛成する国会議員を増やすことも重要だ。Marriage for All Japanは国会議員の同性婚に対する考え方について知るツールや、国会議員に対して平等な婚姻制度の法制化を求める声を届ける機会を設けている。(※31,32)

  • 寄付する

Marriage for AllやEMA日本、「結婚の自由をすべての人に」訴訟(同性婚訴訟)など、婚姻の平等を実現するために活動する団体に寄付をすることも支援になるだろう。以下、支援先の例をあげておく。

公益社団法人Marriage for All Japan – 結婚の自由をすべての人に 寄付・支援
NPO法人EMA日本 賛同・参加・寄付ーSupport&Join
CALL4 結婚の自由をすべての人に訴訟(同性婚訴訟)

  • 発信する

自分が知った情報をSNSや会話の中で周囲へ発信することや、活動への「いいね」・リツイートをすることも力になる。また、自分が性的マイノリティを理解しようとし、支援する「アライ」であることを伝えることも当事者の安心感につながるだろう。

※30 参考:Marriage for All Japan「知りたい!変えたい!同性婚」
https://www.marriageforall.jp/
※31 参考:Marriage for All Japan 「賛成の国会議員を増やそう」https://www.marriageforall.jp/parliament/action/
※32 参考:Marriage for All Japan「マリフォー国会メーター」
https://meter.marriageforall.jp/

まとめ

小学生の時から漠然と「将来は結婚をするだろう」と思っていた。友人に「結婚する」と報告したところ、「幸せだね」と声もかけられた。しかし、そんなポジティブなイメージと隣り合わせの婚姻制度について、そして家族について調べてみると様々な不平等性を内包していた。

同性のカップルは婚姻制度を利用する選択肢すらない。どちらか一方の苗字を選ばなければ結婚できない。享受してきた数々の制度や幸せが当たり前でなかったことに気づかされた。世界には色々な人がいるのに、一律に子どもを産み育てる異性カップルを前提とした「婚姻制度」しか利用できない。婚姻制度を利用できない/利用しない場合はさまざまな不便さや不利益にさらされ、制度に傷つけられている人がいる。

パートナーシップ宣誓制度は、同性カップルや事実婚のカップルとしてこれまで法律の枠組みで保護されてこなかった人に目を向けたという意味で、社会が前進する大きな足がかりになるかもしれない。一方で、パートナーシップ宣誓制度からなお排除される人がおり、法的効果も十分でない。誰もが平等かつ自由に選択できる結婚制度を実現することは、当事者に限らずすべての人の生活を豊かにするだろう。パートナーシップ宣誓制度の導入が、すべての人が自分事として結婚の意味について考え、他者の幸せに目を向けるきっかけになってほしい。

参考文献
・落合恵美子『21世紀家族へ 家族の戦後体制の見かた』ゆうひかく選書
・エスムラルダ・KIRA『同性パートナーシップ証明、はじまりました。渋谷区・世田谷区の成立物語と手続きの方法』ポット出版
・大村敦志『新 基本民法 家族編』有斐閣
・岩間暁子・大和礼子・田間泰子『問いからはじめる家族社会学 多様化する家族の包摂に向けて』有斐閣ストゥディア

 

文:Natsuki Arii
編集:武田大貴