よりよい未来の話をしよう

便利な時代こそ“わからないこと”を大切にしたい シンガーソングライター・崎山蒼志【止まった時代を動かす、若き才能 A面】

2019年末から世界を侵食し、今なお我々を蝕むコロナ禍。失われた多くの命や、止まってしまった経済活動や、浮き彫りになった価値観の衝突など、暗いニュースが多い現在。しかし、そんな閉塞的な空気の漂う今でも、むしろ今だからこそ、さらに自身のクリエイティビティを輝かせ、未来を作っていく素敵な才能を持つ若者たちが存在する。

既成概念にとらわれない多様な暮らし・人生を応援する「LIFULL STORIES」と、社会を前進させるヒトやコトをピックアップする「あしたメディア by BIGLOBE」は、そんな才能の持ち主に着目し、彼ら/彼女らの意志や行動から、この時代を生き抜く勇気とヒントを見つけるインタビュー連載共同企画「止まった時代を動かす、若き才能」 を実施。

A面では、その才能を支える過去や活動への思いを、B面では、表舞台での活躍の裏側にある日々の生活や、その個性を理解するための10のポイントを質問した。
 
B面はこちら から (10月6日午前掲載予定)

第3弾は、シンガーソングライターの崎山蒼志さん。中学生のときに出演したネットテレビで自身が作詞・作曲した曲を披露し、その衝撃から一気に注目を浴びるようになった。現在も常に新しい音楽を世の中に届け、私たちを魅了し続けている。小さい頃から向き合い続けてきた音楽と崎山さんの「いま」、そして「未来」について伺った。

音楽にずっと惹かれ続けている

崎山さんが音楽と出合ったのは幼少期。当時母親が好きだったヴィジュアル系バンドに憧れ、4歳からギターを始めたそうだ。仕事として音楽に関わるようになったいまに至るまで様々な音楽に出合い、ずっと音楽に惹かれ続けていると言う。

「元々は母の影響でハードな音楽がとにかく好きでした。その後、小学校高学年の頃からSEKAI NO OWARIやクリープハイプなどの邦楽ロックを聴くようになりました。父がブラックミュージックやアシッドジャズが好きだったので、車の中で流れている曲も聴いていましたね。中学生になってからもさらに色々な音楽に触れるようになりましたが、全然違うのに、それぞれに惹かれる部分があったんです。その後もどんどん新しい分野を知りたいと思うようになっていきました。

音楽には、色んな聴き方や楽しみ方があると思います。歌詞、グルーヴやメロディー、和音進行やジャンルとか。その音楽が生まれた土地やシーンの文化を知ることができるカルチャーだとも思っているので、自分も楽しく挑戦を続けられています」

親と一緒に行ったTSUTAYAでポップアップされているアーティストのCDを借りてみたり、YouTubeのおすすめ動画に出てくるジャンルの音楽を聴いてみたり、好きなミュージック・ビデオの監督が関わった作品を調べてみたりと、日常のなかで自然と出合う1つ1つの音楽を楽しんできたそうだ。そんな出合いに影響を受け、自身で作る曲の作風も変わってきたと言う。

「曲を作り始めた中学生の頃は地元で活動をしていました。自分も周りの友人も繊細な時期で、当時の曲作りはそんな人間関係のなかで溜まっていたフラストレーションのはけ口だった面があったと思います。そこからだんだんと聴いてくれる方が増えるにつれ、アウトプットも変化していった部分がありました。

ポジティブなメッセージを発信したいと思った時期もありますが、僕自身がそこまでポジティブじゃないのであまりしっくりこなかったり、押し付けがましくなってしまったり、バランスが難しいと悩んだ時期もあります。そういった紆余曲折を経て、いまは自分も無心でただ楽しめるような“没入できる音楽”がやりたいなと思っています」

自分の音楽が、「好き」の延長線上にあったら最高

崎山さんは、これまでも様々なアーティストとコラボレーションした楽曲を発表している。また、今年2022年の夏にかけて日本各地での対バンツアーも行なった。崎山さんの音楽は、こういった他のアーティストからの影響を受けることも多いようだ。コラボレーションする相手は、SNSなどでもともと親交のあったアーティストや、憧れのアーティストが多いと言う。

「様々なアーティストの皆さんとのコラボレーションは、まずはシンプルに『一緒にやれて嬉しい』という気持ちが大きいです。リスナーとして聴いているのとは違って、同じミュージシャンとして声をかけてくれるのも嬉しいですし、間近で受ける衝撃はすごく大きいです。親しくなって曲の作り方を聞くこともあります。同時に『もっと自分もできるようにならなきゃ』と強く感じます。もっと自分の世界を確立していきたいなって。

最近、七尾旅人さんと一緒にライブをしましたが、指針のような日になったというか…。こうやって音楽続けられたらいいなと強く思いました。すごすぎる…。言葉が出てこないくらい、すごかったです。音楽に関わる方々への想いを言葉にするのは難しいのですが、それくらい大きな影響を受けています」

一方で、「大好きな音楽」が「仕事」になったことについては、どんな風に感じているのだろうか。何らかの棲み分けがあるのだろうと予想した反面、崎山さん自身のなかではその線引きはないようだ。

「趣味の音楽も仕事の音楽も、混在していると思います。音楽が仕事になったことで苦しいことももちろんあります。後から自分の曲を聴き直して『うわ、この部分をこうしておけばよかった』と納得がいかないときは、苦しいですね。自分の作品は、いつも僕自身の『好き』の延長線上でいられたら最高だと思います。自分が好きじゃないとしっくりこないし、責任が持てないですしね。周りのアーティストの方々に影響も受けつつ、そこで感じたものが自分のなかにも蓄えられて、自分なりの形で出ていくのが理想です」

原体験から見つけたやりたいことは、童心に帰ること

周りのアーティストから受ける影響も吸収しつつ、崎山さんは「自分っぽい」音楽の形を考え続けていると言う。周りからはコード進行や歌い方、歌詞などが崎山さんの“個性”だと言われることが多いそうだが、最近小さい頃の原体験にしっくりくる“自分らしさ”を見つけたそうだ。

「“自分っぽい”ってなんだろう、ってずっと考えていたんです。ですが、地元に帰って幼少期に触れていたものに改めて向き合ったときに、原体験を思い出して。小さいとき、お母さんにたくさん絵本を読んでもらったんですよね。絵本って変わった話も多くて、直接的に何を言っているのかよくわからないこともあるんです。でもすごく温かいことが書いてある。どこかかわいらしくて、どこか不気味でもあって。すぐには理解できないし、よくわからない。でも何か大切なことを伝えようとしている…そのわからなさが面白いなと思っていて。自分はそういうことがやりたいんだなって、最近気づきました。そこに気づいてから、『童心に帰ること』がいまの自分のテーマになりました。今後の自分らしさにも繋がっていくんじゃないかなって思っています」

音楽とは離れたところでは自分自身をどんな風に捉えているのだろうか。シャイでネガティブかと思いきや突然明るくなったり、ものすごく短気だけれど温厚な側面もあったりと「極端なタイプで矛盾ばかり」だと自身を定義する崎山さん。そんな中でも、とくに好きな「陽気な自分」についても語ってくれた。

「意外と、本当はめちゃめちゃ明るいやつだと思います。1人のときはもっとおちゃらけているんですよ。自分の陽気なところはすごく好きです。朝、鏡を見て自分と目が合ったら『うぃー』みたいな挨拶をしています(笑)。変ですよね。だけどそういう自分が1番好きですね」

わかりやすさが重視されがちな社会で、「わかりにくいこと」をやりたい

最後に、いまの崎山さんは未来の自分にどんな姿を見ているのだろうか。今後やっていきたいことを質問したとき、1番に出てきた言葉は「音楽をとにかく頑張りたい」の一言だった。また、便利で簡単で、考えなくてもわかった気になって生活していける現代社会の中でこそ、やってみたいという野望も語ってくれた。

「まずは、とにかく音楽を頑張りたいなと思います。ゆくゆくは楽曲提供やプロデュースもできるよう、技術的なことも学んでいきたいと思います。あと、すごく変なこともやりたいです。いまの時代って、解説やまとめ情報があふれていたり、自分で選ばなくても勝手にオススメが流れてきて『好き』『苦手』を決めるだけで済んでしまったり、時短でわかりやすいものが好まれる場面が多いなと思っていて。だからこそ、『長尺なわかりにくいこと』もやりたいんですよね。そういう意味では音楽だけじゃなくて、コントや演劇みたいなこともやってみたいです」

20歳になったばかりの崎山さん(※)。30歳、40歳と歳を重ねていくなかでも音楽に関わり続け、熱心に取り組んでいきたいと言う。また、それに加えて若い人をフックアップできる大人でもありたいと考えているそうだ。

「歳を重ねていくにつれ音楽が自分の中で進んで、より自分の音楽を確立していたいとは感じています。あと、自分がもっと大人になったときに、いまの自分のような若い人を見えないところでサポートして、やりたいようにやってもらえる環境を整えてあげたいんです。自分自身も年上の方にそうしていただきましたし、若いとうまく伝えられないこともあると思うんですよね。そういう悩みもめちゃめちゃ聞いてあげられる、友達みたいな大人になれたらいいなと。自分がいただいたものは絶対還元したいんですよね。音楽だけじゃなくて、いろんなことに対して。ただ、頑張らないとそこにはいけないと思うんで…頑張ります」

※取材直後に20歳の誕生日を迎えた。

1つ1つの質問に、丁寧に言葉を選びながら答えてくださった崎山さん。いま現在まさに輝かしい活躍をしていながらも、謙虚に自分が求める未来に向けて努力と思索を積み上げる姿勢がとても印象的だった。自分の「好き」や「ありたい姿」、そして自分自身に真摯に向き合い挑戦を続けることが、新しい未来を切り開くヒントなのかもしれない。

続くB面では「10の質問」を通して、プライベートも含めた等身大の崎山さんについて改めてお話を聞いた。そちらもぜひご覧いただきたい。

崎山蒼志
2002年生まれ、静岡県浜松市出身のシンガーソングライター。2018年5月に出演したインターネット番組をきっかけに世に知られることになる。2018年7月に初のシングル『夏至 / 五月雨』を発表し、同年12月に1stアルバム『いつかみた国』をリリース。2021年1月にアルバム『find fuse in youth』でメジャーデビューを果たす。
現在、テレビドラマや映画主題歌、CM楽曲などを手掛けるだけではなく、独自の言語表現で文芸界からも注目を浴びている。雑誌「ギター・マガジン」では連載「崎山蒼志の未知との遭遇」を執筆中。また、新潮社の月刊誌「波」にて、新連載「ふと、新世界と繋がって」もスタート。


取材・文:大沼芙実子
編集:白鳥菜都
写真:内海 裕之