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It’s Morbin’ Time! クリエイティブの民主化がはじまる。

2022/07/11/110000

2022年は大作映画の当たり年だ。スパイダーマンやバットマンのヒーロー映画、トップガンの36年ぶりの続編、ウルトラマンの新作など、様々な作品が劇場を賑わせている。

しかし、Twitterの話題をさらったのは、こうしたヒット作ではなく、意外な映画だった。

2022年前半、Twitterでもっとも愛された映画とは

『モービウス』(22)という映画をご存知だろうか。マーベル・コミック原作で、ヴァンパイアをモチーフにした主人公モービウスが活躍するヒーロー映画だ。以下、公式サイトのストーリー説明を引用する。

天才医師マイケル・モービウスは幼い頃から血液の難病を患っていた。同じ病に苦しみ、兄弟のように育った親友マイロのためにも治療法を見つけ出そうと、コウモリの血清を投与するという危険な方法を試すことに―。彼の身体は驚くべき変化を遂げ、超人的な筋力、スピード、飛行力に加え、周囲の状況を感知するレーダー能力まで手にするが、その代償として得たのが抑えきれない“血への渇望”だった(※1)。

アカデミー賞受賞俳優のジャレッド・レトを主演に迎え、ソニー・ピクチャーズ入魂の一作として公開された『モービウス』だったが…結果は散々だった。批評家からも観客からも酷評され、興行収入も期待を下回るものだった。Twitterにも辛辣な意見や、劇場のガラガラぶりを茶化すツイートがあふれた。

少し前の時代だったら、『モービウス』はよくある失敗作のひとつとして、このまま忘れられていたかもしれない。しかし、Twitterが『モービウス』の運命を変えた。

きっかけは、2022年4月3日にRata(@RANK10YGO)というアカウントが、こんな内容をツイートしたことだった。

「モービウスで最高なシーンは、ヤツが“IT’S MORBIN’ TIME”という決め台詞で、Morbしまくったところだね」

一応書いておくと、『モービウス』にこんなシーンはない(実際に映画館で観賞した数少ない観客のひとりとして保証する)。いわゆるネタ・ツイートだ。元ネタは英語版パワーレンジャーの決め台詞 “It’s Morphin’ Time”だと言われている。しかし、”Morbin’ Timeというフレーズの語呂の良さや妙なキャッチーさが、批評ではとらえきれなかった『モービウス』独特の魅力を言語化していたのは事実だった。

結果、このツイートは2.1万リツイート&20万いいね!を記録(2022年6月8日時点)。“It’s Morbin’ time”はTwitterのトレンド入りをするほどのバズとなった。Twitter民による大喜利ツイートも発生。これらのツイートにつけられた #Morbiussweepというハッシュタグも、拡散を後押しした。

ネットカルチャーに造詣が深いことで知られるKFC公式アカウントも大喜利に参戦。映画のポスターをパロディにした画像を投稿した。このKFCのツイートは4.5万リツイート、38.1万いいね!を記録。元ネタを超える大ヒット・ツイートとなった。

こうした盛り上がりを受けて、『モービウス』はApple TV配信作でランキング1位を記録した。単にネタとして話題になっただけではなく、一定の商業的成功につながったのだ。

この盛り上がりを受けて、ソニー・ピクチャーズは全米1000以上の映画館で『モービウス』を再上映した。残念ながら、今回も期待していたほどの集客には繋がらなかったらしい。しかし注目すべきは、たったひとつのツイートがきっかけで、ソニー・ピクチャーズという大企業が、決して小さくない規模の決断をした、という事実だ。

先に紹介したKFCのツイートも、公式である以上、ソニー・ピクチャーズの許可は取っているだろう。一般ユーザーと同じスピード感で、大企業の公式がTwitter大喜利に参加していることに驚かされる。

広告クリエイターが企画・制作し、一般の人々に向けて発信する。これが広告の一般的なイメージだろう。しかし、先に紹介した「モービウス」の事例では、この流れが逆転している。スマホを持った誰もがクリエイターになり、大企業の広告戦略を左右する時代が来たのだ。この「クリエイティブの民主化」について、本稿では事例紹介を交えながら解析し、今後の展望について紹介したい。

※1 ソニー・ピクチャーズ 公式『モービウス』
https://www.sonypictures.jp/he/2315289

Twitterの絶対女王、ウェンディーズ

ウェンディーズはTwitterでもっとも成功している企業アカウントのひとつだ。日本の人気企業アカウントは、SHARPのような謙虚で優しいキャラクターが大半だが、ウェンディーズは全く異なる。

このように、ライバルのマクドナルドに喧嘩をしかける過激なキャラクターで人気を博しているのだ。

このウェンディーズに向けて、2017年4月6日、カーター・ウィルカーソン(@carterjwm)というアカウントがつぶやいた。

「何リツイートされたら、1年間チキンナゲットをタダにしてくれる?」

ウェンディーズの返答は「1800万」というものだった。

結果、1800万は無理だったものの300万を超えるリツイート数を記録。Twitter社から公式に「世界最多リツイート」(当時)に認定され、@carterjwmは見事、1年間無料のチキンナゲットを手に入れることに成功したのだ。

ちなみに、下記のオバマ元大統領のツイートのリツイート数は147.8万だ。

2014年のアカデミー賞受賞式での、登壇者が撮ったセルフィーは293.5万ツイートを記録している。

比べると、ウェンディーズの300万超というリツイート数の凄さが分かる。いちTwitterユーザーが、アメリカ元大統領や世界的なセレブに勝ってしまう。「クリエイティブの民主化」の時代を象徴する事例だ。

TikTokで何が起きているか

「クリエイティブの民主化」の端緒となったのがTwitterだとすると、その最先端はTikTokにある。ここではアメリカのアービーズ(Arby’s)というファスト・フードの事例を紹介しよう(スピード感を理解していただくために、日付を記載する)。

2020年10月23日:
ジョン・キャスタリン(@h1t1)というTikTokクリエイターが、次の動画を投稿した。

@h1t1

oh no

♬ h1t1 sound - john casterline

どこかで25ドルのテレビを買ってきて、電源をつけてみたら、テレビではなくアービーズのメニューボードだった…という内容だ。日常のちょっとしたトラブルだが、これが360万いいねを記録するヒット動画となった。真似をして「オレのカーナビでもアービーズのメニューが表示された」といった動画を投稿するユーザーも続出した。

2020年10月24日:
翌日に公式が反応。「これ、探してたんだよ!」というコメントをつけた。

@h1t1 Reply to @arbys ♬ h1t1 sound - john casterline

2020年10月29日:
アービーズは、”HEY @H1T1 WE WANT OUR TV BACK #ARBYS” (意訳:テレビ返してよ!)というメッセージを、飛行機を使って空に掲示。ジョンに撮影させて、TikTokに投稿させた。文章だと分かりにくいので、実際の動画を見てみてほしい。

@arbys #duet with @h1t1 Back to the drawing board 😔 #h1t1 #arbystv #arbysmenu #arbysmenuscreen #arbys #fyp ♬ h1t1 sound - john casterline

アービーズがTikTokのデュエット機能で、ジョンの動画を巧く利用していることにも注目してほしい。

2020年11月7日:
アービーズはメニューボードの代わりに、ジョンに新品のテレビをプレゼントした。テレビをつけると、今回の騒動を記念した「$5 Missing Menu Meal」という新メニューの発売は告知された。ジョンは「後でお店に行って食べてみるよ。これはヤバイ!」と、大喜びの様子だ。

@arbys #duet with @h1t1 We don’t play around‼️ The $5 Missing Menu Meal runs from 11/6 to 11/20. #h1t1 #arbystv #arbysmenu #arbysmenuscreen #arbys #fyp ♬ original sound - Arbys

その後、ジョンはアービーズを訪れ、メニューボードを返却。代わりに新メニューを受け取る様子をTikTokで公開している。

一連の動画は全部で2億7300万回再生され、新メニュ―は3000食以上売れたと伝えられている。

TikTokで自社の話題に絡むだけであれば、さほど難しいことではない。驚くべきは、そこから2週間で新メニューの販売に漕ぎ着けたことだ(アービーズは全米に3400以上の店舗を持つチェーン店だ)。マーケティング、メニュー開発、店舗運営など、複数部門が連携できる体制を敷かないと、こうした事例は実施できない。「クリエイティブの民主化」に対応するには、民主的な組織づくりから始める必要があるのかもしれない。

クリエイティブの民主化、日本の動き

日本の事例も見てみよう。2021年夏、サントリーは #バズるかも というキャンペーンを実施した(筆者も制作チームの一員として参加している)。Twitterで今後、バズるかもしれないクリエイターを自薦&他薦で募集。審査を経て選ばれたクリエイターにデカビタCの広告制作を依頼する、というのがキャンペーンの概要だ。

しばしばネットで批判される広告業界の閉鎖的制作体制をオープンにしたことが、#バズるかも の特徴だ。審査員はインフルエンサーが務めるので、ネットユーザーの納得度も高い。自薦に加えて他薦応募もできるシステムは、ネットの推しカルチャーとの相性が良い。最終的に完成した広告作品だけではなく、応募フローそのものがサントリーに広告になる仕組みになっている。

広告業界には、最終納品物を意味する「完パケ」というスラングがある。しかし、アービーズやサントリーのような、プロセスそのものが広告としてワークする事例が、今後は増えていくだろう。

#バズるかも に審査委員長として参加していた明石ガクト氏は、TikTokerとコラボした出前館の動画を配信している。

人気TikTokerが出前館のクーポンを利用する様子をとらえた、シンプルな内容だ。広告として作り込まれた部分は一切なく、普段の投稿内容とほとんど変わらない。明石氏の「広告ではなく"案件"の時代が訪れようとしている」というコメントが的を射ている。

「クリエイティブの民主化」は、今後、間違いなく広告のあり方を大きく変えていくだろう。一方、ポカリスエットのCMのような、プロフェッショナリズムの結晶とも言える作品も、ソーシャルメディアで大きな支持を得ている。

「民主化」と「プロフェッショナリズム」、ともに理解し使い分けることが、ソーシャルメディア時代の基本動作になりつつある。

 

橋口 幸生
株式会社電通 クリエイティブ・ディレクター、コピーライター。最近の代表作はロッテガーナチョコレート、出前館、スカパー!堺議員シリーズ、鬼平犯科帳25周年ポスター、「世界ダウン症の日」新聞広告など。『100案思考』『言葉ダイエット』著者。TCC会員。趣味は映画鑑賞&格闘技観戦。 
https://twitter.com/yukio8494


文:橋口幸生
編集:Mizuki Takeuchi

 

(注)本コラムに記載された見解は各ライターの見解であり、BIGLOBEまたはその関連会社、「あしたメディア」の見解ではありません。