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光害から夜空を守る取り組みと「星空保護区®」とは

この春、関東に引っ越してきた。趣味がパン屋さん巡り、ショッピング、観光である筆者は、せっかく関東に引っ越してきたのであればと思い、関東圏で良いスポットはないかを調べることにした。しかし、関東は人がとにかく多い。パン屋さんには並ぶし、欲しい服が買えないこともある、どこに行っても予約制が多い。こうなれば、穴場スポットを探すしかない。

探していると東京都の「神津島」がヒットした。海鮮は美味しいし、自然も豊か、さらに「星空保護区®」に認定されており、夜には星も綺麗とのことだ。これはぜひとも足を延ばしたいが、「星空保護区®」とは一体何なのだろうか。「星空保護区®」について調べてみると、環境問題である「光害」(ひかりがい)が関係しているようだ。

「光害」の実態とは、「星空保護区®」とはどのようなものなのだろうか。

「光害」とは?

そもそも、光害とは一体何なのだろうか。環境省のホームページでは以下のように説明されている。

照明の設置方法や配光が不適切で、景観や周辺環境への配慮が不十分なために起こるさまざまな影響をいいます。(中略)照明器具から出る光が、目的外の方向に漏れたり、周辺環境にそぐわない明るさや色であったり、必要のない時間帯にまで、つきっぱなしであったりすることで起こります。(※1)

 

身近な光害の例には、不必要に明るい店の看板の光がエネルギーの無駄に繋がっていたり、明るすぎる道路の人工照明が居住者の暮らしに影響を与えたりすることが挙げられる。

また、私たち人間以外の生物や環境への影響もある。
生物の例をあげると、ウミガメへの影響だ。ウミガメは砂浜の上で産卵を行うが、灯りを嫌うため、明るい砂浜では産卵を行わない。しかし、明るい砂浜が増えてくると仕方がなくそこで産卵を行う必要がある。その場合、光に向かう習性のある子ガメは、外灯に誘われ溝に落ちてしまったり、車にひかれたりすることがあるのだという。

そして当然、光害は星空へも影響を及ぼす。国内でも増加する光害に対策するべく、2021年3月に「光害対策ガイドライン」(※2)が改訂された。その中には、屋外照明による環境への影響や対策、スカイグローが夜空に与える影響に関する記載もある。スカイグローとは、水平より上向きの光である上方光束が散乱し、夜空が明るくなることを指す。その影響は大きく、大都市の街灯りは、おおよそ100km以上離れた地点の星空に影響することもあるという。
同ガイドラインの中では、スカイグローと夜空に関するある研究にも触れられている。その研究では、世界で80%以上の人が人工光に影響を受けた夜空の下で生活しており、日本でも人口の約70%が天の川を見られない環境で生活していることが示されている。

また、日本ではまん延防止等重点措置に伴う時短営業により星の見え方が変わったという報告(※3)もある。店舗の消灯が早くなった影響で少し星空が見えやすくなっている方角もある一方で、大型商業施設やゴルフ場などの過度に周囲を照らす灯りは変わらず灯っているため、その方角は星空が見えにくいままだという。このことからも、光害が星空に悪影響を与えていることが分かる。

ここでは、光害を中心に扱っているが、星空が見えづらくなる原因の1つには、火力発電所や自動車から排出される大気汚染物質濃度の増加による大気汚染も挙げられる。星空が見えづらくなることは、持続可能な社会を実現していく上でも問題であると考えることができる。

※1 引用元:環境省「「星空を見よう」 光害について」
https://www.env.go.jp/air/life/hoshizorakansatsu/observe-5.html

※2 環境省が1998年に策定。2006年にも1度改訂されている。
https://www.env.go.jp/press/files/jp/115913.pdf
※3 参照:環境省「星空観察」取組報告書 令和2年度実施分 兵庫県立舞子高等学校天文気象部(兵庫県 神戸市)
https://www.env.go.jp/air/maiko_R2W.pdf

「星空保護区®」とは?

光害の影響が星空に及ぼす問題は日本だけで起きているのではなく、世界全体で起こっている問題なのだ。
そんな状況を打開するために作られたのが「星空保護区®認定制度」だ。本部を米国アリゾナ州に持つ「国際ダークスカイ協会(IDA)」が2001年に始めた、光害から自然の夜空を保護する制度で、2021年11月1日の時点で、世界で187ヶ所の地域が、星空保護区®に認定されている。公式ホームページでは、当制度の役割について次のように述べられている。

光害の影響のない、暗い自然の夜空を保護・保存するための優れた取り組みを称える制度
認定には、屋外照明に関する厳格な基準や、地域における光害に関する教育啓発活動などが求められます(※4)

認定される地域は、星空が綺麗に見えるだけの地域ではなく、地域の環境を守る取り組みや、教育やイベントなど行なっていることが条件であることがわかる。世界の「星空保護区®」に認定されている地域では、一体どのような取り組みを実施しているのだろうか。

例えば2014年に、アメリカ南東部ノースカロライナ州にある、ブルーリッジ天文台とスターパークが認定を受けた。取り組みとしての特徴は、敷地内の全ての照明がフルカットオフ型・低色温度LEDの照明器具であることだ。フルカットオフ型とは、水平以上に光が漏れないようにし、不必要に周りを照らさない照明である。色温度というのは光の色を表すための尺度のことで、低い方が温かみのある色を発する。夜にはより自然光に近い低色温度の照明の方が、生態系や人体への影響を抑えることができるとされているため、環境に配慮した取り組みであることが認められたのだ。

また、2020年に認定を受けたイギリスのノース ヨーク ムーアズ国立公園は、2016年から毎年10月に開催されているダークスカイフェスティバルによって「星空保護区®」として認められた。このフェスティバルは、星空観察イベントだけでなく、地域に住む夜行性の生き物たちの生活について知ることもできる。
ここまで2つの海外の事例を確認してきたが、日本の星空保護区に認定されている地域ではどのような取り組みを行なっているのだろうか。

※4引用元:一般社団法人 星空保護推進機構「星空保護区とは」
https://hoshizorahogoku.org/idsp/

日本の取り組み

現在、日本には3つの星空保護区®が存在する。その中の1つが冒頭に述べた東京都の離島「神津島」だ。調布飛行場から出ている飛行機であれば片道45分で行くことができる。
2020年に星空保護区に認定された神津島の取り組みには、光害対策型の街灯・防犯灯に取り替える事業や島民自らが星空案内をできるように、と始まった「神津島星空ガイド養成講座」などが挙げられる。また島全体で星空保護に取り組むため制定された「神津島村の美しい星空を守る光害防止条例」には、照明を使用する屋外広告看板について、日没時刻の1時間後以降から日の出時刻の1時間前まで点灯してはならないことなども明記されている。

日本の星空保護区®には、離島以外でも認定されている地域がある。それは、岡山県井原市「美星町」だ。美星町は1989年に日本で初めて「光害防止条例」が制定された地域である。この条例では、午後10時から日の出までの間消灯することが奨励されていたり、屋内照明で大量の光を使用する場合はカーテン、ブラインド、雨戸等の遮蔽物(しゃへいぶつ) により、できるだけ屋外に光を漏らさないよう配慮することが明記されている。また、自治会などの地域団体が設置するLED防犯灯の設置費の一定額を補助する取り組みも行なっている。

上記2つの地域に加え、沖縄県の「西表石垣国立公園」が日本で星空保護区®として認定されている地域である。

その他にも現在、新しく星空保護区となるように取り組んでいる地域が日本にはある。それが、福井県の大野市だ。大野市は2023年の認定を目指しさまざまな取り組みを行っている。

例えば、星空を楽しむイベントとして、定期的に開催し収益の一部を星空保護や景観整備に役立てる「星空ハンモック」、2月に開催される「星降るランタンナイト」(2022年は中止)などがある。(※5)また地域への教育の一環として、2021年の7月7日と8月8日には、「ライトダウン」イベントが開催された。このイベントは、イベント前にアプリや動画で星空や環境問題について学びを深め、開催日の午後9時から午後10時の間は極力消灯を行い、大野市民で綺麗な星空を眺めようというものだ。
また屋外照明に関する光害対策も積極的に行っており、今年度中に市と県の施設敷地内の約250基を交換する予定だそうだ。今後も、大野市がどのような取り組みを行っていくか注目したい。

※5 大野市 「大野市の星空を 星空の世界遺産「星空保護区」に!」
https://www.city.ono.fukui.jp/shisei/seisaku-keikaku/sonota/kanko00120201112.html

最後に

人気の少ない夜道を照らすことは、犯罪を防止するためにも確かに大切である。しかし、夜空を損ねてしまうほど明るく照らす必要はない。家の外灯を少しだけ暗くすることや低色温度LEDに変更すること、屋内の光が外に漏れないようにカーテンやシャッターを閉めることで、光害を減らしていくことは誰でも実践可能だろう。

光害を減らし環境問題に取り組みつつ、観光開発を実践し地域を盛り上げる取り組みを知ることも明日をよりよくするために大切なことだが、機会があれば実際に足を運んで欲しい。ペルセウス座流星群がピークを迎える頃にやってくる次の長期休暇を、都会から離れ美しい星空や天体を楽しむ、アストロツーリズムで過ごすのも悪くないのではないか。


文:吉岡葵
編集:白鳥菜都