よりよい未来の話をしよう

あしたメディア in Podcast #15−#16 能條桃子さんが見出す、若い世代の社会づくり

f:id:tomocha1969:20220309084909p:plain

ラップデュオchelmicoのRachelさんと映画解説者の中井圭さんが、各回ゲストスピーカーを迎え、「社会を前進させる取り組み」をテーマに、様々な切り口から“いま”知りたい情報を全16回に渡り発信する「あしたメディア in Podcast」。この記事では、最終回となった第15回(2月21日配信)と第16回(2月24日配信)の内容をダイジェストでお届けする。

今回のゲストは一般社団法人NO YOUTH NO JAPAN(以降、NO YOUTH NO JAPAN)代表理事の能條桃子さん。第15回の放送では「U30 世代の政治参加とこれからの日本」を、第16回の放送では「SDGsウォッシュの課題とこれから」をテーマに、能條さんが政治参加を呼びかける活動を開始したきかっけや、若い世代と政治、はたまた近年勢いを増しているSDGsに関する企業の取り組み方など多岐にわたるトークが展開された。

open.spotify.com

open.spotify.com

きっかけはデンマーク留学

能條さんが代表理事を務めるNO YOUTH NO JAPAN。同団体の主な活動内容や、現役学生である能條さんが、団体を立ち上げたきっかけからトークが始まった。

Rachel:NO YOUTH NO JAPANではどのような活動をされていらっしゃいますか?

能條:若い世代の政治参加の促進を目指して活動しています。メインの活動は、Instagramの運営で、政治や選挙について分かりやすく発信しています。

Rachel:Instagramはみんな見るし、ハードルが高いと感じやすい政治の話を翻訳してくれているのはとてもありがたいですね。活動を開始するきっかけは何だったのでしょうか?

能條:大学生時代のデンマーク留学です。留学期間中にデンマークで選挙があったのですが、20代の投票率が80%を越えていました。周りの友達がとても楽しそうに政治の話をしていて、「デンマークに生きやすい社会ができているのは、これが理由ではないか」と思ったんです。日本では「分からないから選挙に行かない」と言う友人が多くいました。だったら、その「分からない部分」を私が分かりやすく伝えて、会話のきっかけを作れたら良いなと思い立ち上げました。

Rachel:デンマークでの留学経験以前にも、日本の政治に対する問題意識は抱いていたのですか?

f:id:tomocha1969:20220309085404j:plain

能條:大学2年生のときに選挙のインターンに参加した頃から、問題意識は抱いていましたね。インターン自体はとても楽しかったのですが、候補者が30代でも、周りにいるのはおじいちゃん・おばあちゃん世代だけで、若者はチラシすら受け取ってくれないし、同級生には「意識高いね」と言われ距離を取られてしまう感覚がありました。私がインターンを通じて感じた「選挙って楽しい!」という感覚と、政治に興味がない若者たちというギャップを目の当たりにしました。

Rachel:日本でNO YOUTH NO JAPANの活動を始めてみてどうですか?

能條:「こんなふうに思っていたのは、私だけじゃなかったんだ!」という実感があります。Instagramのアカウントを開設してからたった1週間で、フォロワーが1万5000人になりました。きっかけさえあれば一緒に動いてくれる人がいるという希望を感じています。

自分ごと化できるテーマから政治と関わる

中井:最近とくに課題に感じているトピックスはありますか?

能條:選択的夫婦別姓や、同性婚などの結婚に関するテーマですね。あとは、緊急避妊薬についても気になります。女性の身体の権利の話なのに、年配の男性たちだけで色々なルールが決められています。そういったところは、もう少し若い世代が関心を持って声を届けるべきなのではないかと思っています。

中井:NO YOUTH NO JAPANの男性メンバーはどのようなトピックに関心を持っている印象ですか?

能條:環境問題の話や、「“男らしさ”による苦しみ」といったジェンダーの課題もよくトピックに上がります。教育についても話す機会が多く、「受験を乗り越えるための教育」に対する問題意識もありますね。

中井:いま出てきたような議論は、中高年以上の世代の中では、メインテーマとしてあまり語られてきていない気がします。選択的夫婦別姓も、同性婚も「自分の話ではない」と思っている人が多いという印象を受けます。

能條:政治って、経済や外交が大切で、それ以外のトピックは後回しという考え方が根強いかもしれません。

中井:選択的夫婦別姓も、権利を獲得するために新たに出てきた議題であると捉えてしまうと、前々から議論している経済や外交の方が重要と捉えられやすい気がしています。でもそんなことはないですよね。世の中も変化しているわけで、そこに対してどう向き合っていくか、政治のアップデートができていないことは非常に問題に感じますね。

能條:政治への入口はやはり自分ごと化できるテーマが良いんじゃないかな。そうじゃないと興味が持てないですよね。近いテーマから入って、興味が広がると、どんどん遠くに感じるテーマにも繋がっていくと思います。身近なものでも「これもじつは政治テーマだよ!」と示すことのできる活動がしたいですね。

政治を語るのはタブー?

中井:僕らの世代は「政治と宗教の話は人としない方がいい」と言われてきました。いまは徐々にSNS等で政治の話をする人も出てきている印象ですが、いまだに政治をタブー視する考え方は根強く存在していると思います。能條さんは政治を語ることの“タブーさ”を感じることはありますか?

能條:ありますね。意見と人格を分けて考える会話に慣れていない人が多いなと感じます。意見が違うと、もうこの人と一緒にいられない、みたいな。そういう人が多いと怖くてとても政治の話なんてできないですよね。

Rachel:確かに。人格攻撃みたいになってしまいますよね。意見が違って当たり前なのにね。

能條:意見は違うけれど友達だよね、という考え方も徐々に広がってきている気はします。ですが一方でTwitterなどを見ていると、どんな人をフォローしているかによって、同じTwitterというツールを使っていても、それぞれの人が見ている世界が全然違うという感覚もあります。

Rachel:この間の衆議委員選挙でも、私がフォローしている人はほぼ選挙に行っていたので、自分のTwitterを見て「投票率100%じゃん!」と思っていました。でも実際には、投票率はめちゃめちゃ低かったという。

能條:そうですよね。ただInstagramやTwitterで選挙について発信する人も少しずつ増えていて、「公に政治の話をしていく」という動きは広がりつつあるな、とは思いますね。

Rachel:なんで日本は投票率が低く、海外は高いのでしょうか?

能條:留学で実感したのは教育の違いですね。デンマークでは、教員が「わたしはこの人に投票するよ」と授業で話していました。自分が意見を言ったことで、生徒が投票者を変えるわけではないから大丈夫、と学生に対する信頼が見えました。あとは、選挙期間の宿題で、候補者の話を聞いてレポートをまとめる、家族と選挙の話をする、といったものもありました。そういう取り組みをしている国とそうでない国では、政治参加へのハードルの高さが違うと思います。

中井:やはり自分たちで考えて、発信することが大切ですよね。同じ目線で政治を見ている人たちが、「自分たちにとっても政治を考えることは価値がある」と声を挙げる活動はとても重要ですし、そう言う点でもNO YOUTH NO JAPANの活動は非常に価値がありますね。

「良いこと」をちゃんと褒める社会を目指して

第16回放送では、「SDGsウォッシュ」をテーマに議論が展開された。SDGsの実現に向けて、一気に舵取りが進む日本。どこに「SDGsウォッシュ」が隠れているのだろうか。

Rachel:「SDGsウォッシュ」という単語は、「あしたメディア in Podcast」の中でこれまでにも何度か出てきていますね。でも街中で「これSDGsウォッシュだ!」と、気付くのは難しくないですか?

能條:私は自分で「SDGsウォッシュ警察」だと思っているぐらい、生活の中で「あ、これウォッシュだ」と思うシーンがあります(笑)。最近見かけたものでは、ファッションブランドが「洋服を5枚購入したらエコバックをプレゼント」というキャンペーンを、エシカルと銘打って行っていました。SDGsとしては大量生産・大量消費が問題視されているのに、「エコバック」は良いことであるとして、大量消費を促していると感じました。SDGsは、地球が抱える問題を企業活動を通して解決しようという動きですが、やり方が本来の意味とマッチしていないな、とモヤモヤすることはよくあります。

Rachel:主催する企業自体も、その取り組みがSDGsなのか、SDGsウォッシュなのか、分かっていないことが多いかもしれないですね。消費者も、SDGs自体が根本的に理解できていないと、ウォッシュなのかどうか、判断が難しいですよね。

中井:企業の例でBIGLOBEを挙げると、ウェブメディアの「あしたメディア」も、この「あしたメディア in Podcast」も、BIGLOBEから「社会貢献を主軸にした活動をしたい」という話があって始まったんですよね。BIGLOBEはインターネットプロバイダ事業の会社ですが、それに加えてより社会貢献していきたい、ソーシャルグッドに取り組んでいる人を世の中に発信して、社会貢献のカラーを出していきたい、という会社の動きがあったんです。そのときにも、BIGLOBEの社内では「SDGsウォッシュにならないだろうか」と恐れる声もあったようです。いま、こういった形で発信ができているのは、僕はBIGLOBE側の英断だったなと思います。

f:id:tomocha1969:20220309090538j:plain

Rachel:確かに、発信したときに「じゃあ君はどうなんだよ」とツッコまれるのは怖いですよね。能條さんは活動を始めた当初、そういう恐れを感じたことはありますか?

能條:自分の意思で始めたことなので、恐れはあまりなかったですね。ただ活動を続けていき仲間が増えていくと、自分だけの問題じゃないと思うことが増えました。でも、叩かれることを心配して言いたいことを言わないでいたら、何のために活動しているんだろう?となりますよね。だから、そういったことには影響されないようにしようと意識しています。
企業の人たちも1歩踏み出すのは難しいと思います。これまでの企業の歩みも、「これが世の中のためだ!」と突き進んできた結果ではあります。でもそこに対して「あれ?問題があるぞ」と声を挙げられるのは、一般市民や利害関係のない人であり、その声が企業を後押しする場合もあると思うんです。なので、炎上や批判の声を恐れずに、誰かが言わないといけないなと思いますね。

中井:僕たちメディアに出る側の人間は、特に課題を可視化し提示していくことを継続的にやっていかないといけないんだろうな、と思います。
今回、「あしたメディア in Podcast」では8人のゲストを迎えて話を聞いてきましたが、共通するのは、「世の中を良くしたい」という強い気持ちがあるということでした。そして、もっと面白く、楽しく、生きやすい世の中にするために、そういう人たちと連帯することができるのだ、という可能性も感じました。

能條:あとは、良いことをやっている人がちゃんと褒められる社会になるのも大事ですよね。炎上ばかりで嫌になるけれど、賞賛されることも大事だと思うので、良い取り組みを実施している企業はもっと評価されて欲しいですよね。

SDGsをムーブメントで終わらせないために

中井:SDGsがただのムーブメントで収まってほしくないな、と思います。

能條:欧米企業は「SDGsのレンズを通して自分たちの事業を見つめ直す」という姿勢が見られます。その上で、SDGsを実現できる事業内容に変えていく、という流れだと思うのですが、日本企業はそうではなくて、SDGsと既存事業は別の内容という捉え方になっています。その捉え方が変わると、自分たちの事業の中で「ここに環境負担が生じてしまっていたね、じゃあ変えようか」という新しい方向への変化に向けたコミュニケーションが生まれていくと思います。

中井:すでに企業でおこなっていること自体がSDGs的に良いことだったりもしますよね。でもそれに気がつくためには、SDGsの内容をしっかり理解する必要があります。

能條:昔からよく「三方よし」と言うじゃないですか。SDGsはまさにそれなんですよね。それができている企業が褒められる文化になると良いなと思います。褒めることは難しいと思うのですが、良いものを買う、そしてそれを買ったよとSNSで報告する、ということも褒める文化につながると思います。

中井:自分の行動が次につながるという意識をもって行動すること、そして常に学びながら社会と向き合うことが大切ですね。
能條さんは、大学院卒業後の進路は考えていますか?

能條:まだ何も考えていません。ただ、若年層の政治参加を促す活動は続けたいですね。これまでも10年以上取り組まれてきた内容ですが、人が入れ替わるとまたゼロからのスタートになってしまいます。これから少子化が一層進み、より若い世代の意見を届けにくい社会になっていきます。でもできるだけそれらの声が聞かれる社会に向けて、必要な仕組みをつくる活動をしていきたいと思っています。

f:id:tomocha1969:20220309090710p:plain

全16回に渡りお送りした「あしたメディア in Podcast」。様々な分野で活躍するゲストを迎えてのトークは、「なんとなく、まじめには話しづらい」というトピックスばかりだったかもしれない。しかし、MCとゲストのキャッチボールで展開された内容は、MC Rachelが言うように「自分の今後の生き方の指標になる」ものでもあったのではないだろうか。
あしたの日本をより良くするために、気づき、考え、対話をしながら前進していきたいものだ。

<あしたメディア in Podcast概要>
MC:Rachel(chelmico)、中井圭(あしたメディア編集部、映画解説者)
配信媒体:Spotify(Apple Podcastでも順次配信予定)
更新頻度:週2回配信、全16回(2月24日 最終回放送)


文:おのれい
編集:大沼芙実子