よりよい未来の話をしよう

あしたメディアin Podcast #11−#12 山本奈衣瑠さんと考える社会課題への情緒的アプローチ

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16回限定で配信された「あしたメディア in Podcast」。この番組ではメインMCの、ラップデュオchelmicoのRachelさんと映画解説者の中井圭さんが、毎回ゲストを迎え、さまざまな観点から「社会を前進させる取り組み」についてトークを展開する。今回は第11回(2月7日配信)と第12回配信(2月10日配信)に放送された内容をお届けする。

この2回の放送では、モデルで俳優の山本奈衣瑠さんをゲストに迎えた。山本さんはモデルや俳優といった肩書きのほかに、フリーマガジン『EA magazine』の編集長の一面も持つ。彼女がこのフリーマガジンを作り始めたきっかけとはなんだったのだろう?『EA magazine』を話題の中心に、より多くの人と「より良い社会」について考えていくための糸口を探る回となった。

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もっと身近なものから社会課題を捉えるために

山本さんが編集長を務め、仲間と一緒に発行している『EA magazine』。デジタルが発達した時代に、あえて紙で、そしてフリーマガジンの形をとっているのが特徴だ。なぜこのような形で生まれたのだろうか。トークは、『EA magazine』の誕生秘話から始まった。

中井:社会の課題を考えるきっかけづくりを目指して不定期に発行されているフリーマガジン『EA Magazine』。こちらの編集長を山本さんがされているんですよね。

Rachel:すごいですね!編集長って!

山本:肩書き上はそうなっていますが、1人で指揮を取っているわけではなく、仲間と一緒に作っています。1号目が出たのが2019年で、2号目が2020年です。出してから結構時間が経っているのですが、私自身も一緒に作っている子達も別のことを本業としてやっているので、締め切りなどは決めずに、想いが溢れ出たタイミングで作るようにしています。

中井:いま、色々な表現手段があると思いますが、その中でもあえて紙にこだわった理由は何かありますか。

山本:まず、個人的に紙が好きというのがあります。また、普段携帯でニュースをみているときって、LINEやInstagramから通知が来ると途中でそっちに集中しちゃうんですよね。そうすると、得たはずの情報が暗闇の中に飛んでいってしまって、自分の体に馴染んでこないな、という感覚があって。紙で読む記憶は体に残るなという印象があるので、あえて紙にしました。読んだときに、いますぐ理解できなくても、本棚に入れておくことで2年後とかにまた開いて理解してくれたらいいなという気持ちもあります。

Rachel:私ね、2号目をたまたま共通の知り合いにもらったんです。ちょうどコロナ禍でみんな精神的に辛い時期だったのもあり、まずモノとして届くという行為自体が「あったけえ!」って思ったんですよね。写真もすごく可愛くてね。

山本:基本的にはインタビューをメインに、写真なども入れて構成しています。Rachelさんがおっしゃった写真は雪のあるところで撮った写真なんですけど、私は環境問題に興味があるので、こういう写真を通じて自然の愛おしさを感じて欲しいなと思って入れました。

中井:環境問題やSDGsについては、左脳的なアプローチが多いですよね。論理的には分かるけれど、どこか右脳的なアプローチが欠けているんじゃないかなと僕も思っていました。『EA magazine』のようにもう少し情緒的な感覚が人を動かすときもあるだろうから、両輪で走っていきたいですよね。

山本:そうなんです。私自身は大学にも行っていないし、社会問題について考えることもほぼなかったんですよね。中井さんがおっしゃっているように、数字で言われても実感できないし、体に染み込んでこないから行動できなかった。なので、この本ではあまり難しい言葉は使わないようにしています。

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山本:それから、フリーマガジンなのでお金をかけずに手に取ってもらえるんです。中学生や高校生など、自分のお小遣いが少ない人にも知ってもらえるようにフリーにしました。私もそうなんですけど、「気になる!」って思っても値段が高かったら萎えてしまうんですよね。でも、その人の心がパッと開いた瞬間を潰したくないなと思って。

中井:すごいですよね。思いついてもなかなか実行できないと思います。たしかに、ハードルを下げないと人は入ってこないですよね。運営はそれなりに大変だと思うけれど、持てる者の義務という側面もあるかもしれませんね。

山本:あと、モデルや俳優の仕事をしながら運営することにも意味があると思っています。いまはちょっとなだらかになりましたが、1号目が出た2019年時点はまだ「芸能人が社会課題に口を出すのはどうなの?」という風潮がありました。でも、こういう仕事をしながら社会への意見を口に出すことは私の成長でもあり、読んでくれる方の成長にもつながるかもしれないと思っています。

Rachel:ご自身のペースで続けているとのことですが、1号目と2号目がすごく良いから早く次を読みたいと思いを馳せちゃう。直接人に会える機会が減っているいまだから、『EA magazine』みたいにピュアに凝縮されたものがあると、人の考えが分かって、対話できる気がしますね。

ジェンダーとフェミニズム、世代の壁を超えて

第12回目の放送では、『EA magazine』1号目のテーマでもあったジェンダーとフェミニズムについてのトークから始まった。

山本:そもそも『EA magazine』ができたきっかけが、ジェンダーとフェミニズムだったんですよね。2019年当時、私はフェミニズムという言葉を聞くと、足を組んで前髪をかき分けて赤いリップをした“強い”女性たち、というイメージがありました。あまりポジティブに捉えられていなかったんです。でも、一緒にEAを作っている子の話を聞いたり、仕事で行ったパリでおしゃれな女の子たちがジェンダーやフェミニズムの話を日常のなかでしているのを聞いたりしてイメージが変わり、自分自身の誤解に気づき始め、私と同じような人もいるだろうと思い、この1号目を作りました。

Rachel:自分が経験することによって実感を伴って気づく、そこから広げてマガジンのテーマにしていった、というのがいいですよね。

山本:基本的には私の気づきから発信するようにしていますね。あとは、失礼ながら上の世代の方はジェンダーやフェミニズムについてあまり動いていないというイメージがあったので、あえて自分と別の世代の方へのインタビューなどもしました。たとえば、プリキュア(※1)を作ったプロデューサーの鷲尾天さんへのインタビューがそうです。お話を聞いてみると、「アニメを見た子たちの人生の力になれる作品を作りたい」という想いを持って製作されているのが分かりました。具体的には、プリキュアのストーリー中に出産シーンを入れたり、男の子が女の子の服を着て登場したり、色んな人種のプリキュアがいたり、工夫をされていてかっこいいなって思いましたね。

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Rachel:私もプリキュア世代で初代の『ふたりはプリキュア』を見ていましたが、プリキュアたちが悪役と戦うときにほぼ拳で戦っていたのは衝撃だったな。魔法とかビームとかそういうものでなくて、“拳”で女の子が戦ってもいいって認められた瞬間でした。

山本:そうなんです!いまは分かるのですが、当時は反抗精神がすごくて、上の世代の人は全然考えてくれていないと思っていたのですが、「一緒に頑張ろう」と言ってくれる人もいるんですよね。

中井:「おじさん」の1人としてコメントすると、僕ら以上の世代は確かに、ジェンダーの問題を自分ごととして捉えずに生きてきた人も多いと思います。そのなかでも、いままでのジェンダー観は古いから追いつかなきゃと必死で追いかけている人と、一方でそのままでいいやって人もいて、そこに大きな分かれ目がありますよね。鷲尾さんのように変えていこうとしてくださる方がいるのは、すごくいいことですよね。

山本:私も上の世代の方にファイティングポーズを取ってしまっていたのですが、こちらも偏見を持っていたんだなとこの記事を作りながら思いました。生まれた時代が違うのだから、心を開いて、バトルせずに会話するのは大事だなって思います。

※1 テレビ朝日系列で2004年から放映されているアニメシリーズ。

自分と対峙する時間を作ること

終盤では、社会問題を考えるための第一歩として「自分を知ること」というテーマが浮かんできた。自分を知ることと、社会問題がどのようにつながるのか、そして自分を知るためにはどうしたらいいのだろうか。

山本:色んな社会課題があるなかで、どれに向き合えばいいのか迷うことがあると思うんですけど、『EA magazine』はその前段階だと思っています。忙しいとニュースや社会課題に対して「私」ができることはないと思っちゃう人もいると思うんですよね。だから、そうなる前に、自分と話す時間が大事で、いまの自分が何に不満を持って、何が美しいと思って、何が足りないのか、そんな風に自分と話す時間のなかでこの本を開いてくれたらいいなって思っています。

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中井:なるほど、Rachelさんは自己対話できてますか。

Rachel:できていないんですよね。やっぱり忙しすぎるし、めんどくさがっちゃうんだよね。女の人はこうだから、男の人はこうだからと決めて、その枠組み通りに生きていくほうが楽ですよね。本当は自分と話して、相手を尊重して会話するのが大事だけど、それができないくらい疲れているのが現状だなって…。

中井:おっしゃるように、時間に追われていると余裕がないから考えることができないですよね。僕は隔週で温泉に行く時間を作っています。大きな仕事でも、温泉優先でスケジュールを立てるくらい、無理矢理にでも時間を作っているんですけど、それが結果的に考える時間を作るポイントなのかもしれないと思います。

山本:私の場合は、家から駅までが遠くて20分くらい歩くんですよね。でもその20分が、色々なことを考える時間になっています。毎日同じ道を通っているからこそ自分の疲れが分かったり、思っていることが分かったり、その延長線上にジェンダーやフェミニズムの問題に気付いたりすることもありますね。

Rachel:なるほど。私はいま、子育てをしていてほぼそういう時間がないんですよね。朝起きて家事をして、赤ちゃんのお世話をして、色々終わるのが18時くらいです。そこからご飯を食べてお風呂に入って寝る、みたいな生活を繰り返しています。

山本:そうですよね。私の姉も子どもがいるんですけど、私とは全く生活リズムが違って、社会問題や選挙の話も「分かるけどね」で話が終わっちゃうんですよね。でも、これは仕方なくて、子育て中の方に「絶対選挙に行きなよ!」なんて強く言えないくらいすでに頑張っているんですよね。だからそういう人の代わりに、学校やメディアが子どもに社会で起きている問題について教える役目もあると思います。忙しい人たちにもさまざまな選択肢がある社会になって欲しいです。

「社会課題」と聞くと、どこか遠くの国の出来事のように感じられる人もいるかもしれない。また、日々の忙しさに追われ、なかなか社会や国の問題まで考えることができないという人も多いだろう。さまざまな思想や属性を持ち、リテラシーも異なる人々が共存する社会だからこそ、『EA magazine』のように多くの人に開かれた「選択肢」が必要なのかもしれない。

〈あしたメディア in Podcast概要〉
MC:Rachel(chelmico)、中井圭(あしたメディア編集部、映画解説者)
配信媒体: Spotify(Apple Podcastも順次配信予定)
更新頻度:週2回配信、全16回

 

文:白鳥菜都
編集:大沼芙実子