よりよい未来の話をしよう

ゆるいアクションがもたらすインパクトを知ること フレキシタリアンという選択

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日本における食文化への関心が高まっていると感じることが最近増えた。ハンバーガーチェーン店は、「プラントベースバーガー」や「ベジバーガー」など食肉を使用しない商品の販売を始めたし、これまで見つけるのが難しかった「ハラールフードが食べられる店」や「ベジタリアンの人も安心して食事ができる店」も、検索さえすれば辿り着けるようになった。都心における食文化の多様化はここ数年で顕著に進んだ。
そんな折に、アメリカ駐在中の友人と連絡を取ってるなかで「フレキシタリアン」という言葉を知った。食品メーカーで働く彼女は「ほぼ毎日のように耳にする」と言っているが、筆者には何を示す言葉なのかも想像がつかなかった。

あなたの食生活に名前をつけるなら?

和食の基本は「一汁三菜」と表現される。三菜が示すのは、3つのおかずであるが、そのうち2つは野菜を摂るように推奨されていることが多い。昔から伝わる日本人にとってバランスの良い食生活であるが、このスタイルは欧米文化の流入により大きく変化してきただろう。さまざまな影響を受けながら変化し、多様化の一途をたどる現代の食生活には、いくつかのカテゴリーが存在する。

〈食生活のカテゴリーと定義〉

オムニボア:植物性食品と動物性食品の両方を食べる人
ペスカタリアン:肉は食べないが、魚・卵・乳製品等の動物性食品は食べる人
ベジタリアン:肉・魚は食べないが、卵・乳製品等の動物性食品は食べる人
ヴィーガン:動物性食品を一切食べない人
(※1)

その他には、あまり広く使われれていないが、「動物性食品のみを食べる人」を定義する「ミータタリアン」というカテゴリーも存在する。今のあなたの食生活はどこにカテゴライズされるだろうか。

「ヴィーガン」という言葉は最近よく耳にするが、その歴史は想像以上に長い。ヴィーガンは、ベジタリアンから派生した食生活であり、1944年にイギリスで確立された。イギリスを拠点に活動するヴィーガン協会「The Vegan Society」がまとめたヴィーガニズムの歴史によると、「信仰」や「宗教」による食制限が起源になっているという。その後、製品としての動物の消費が問題視され、その概念は「食肉」を除くに止まらず、「卵」「蜂蜜」「乳製品」など、人間以外の生物全てから製造された食品を摂らない食生活へと進化していった。資料内では多くは語られていないが、戦争やホロコーストなど、命が大量に失われる体験を通して、自らの食生活を省みた人が一定数いたとも言われている。(※2)

ヴィーガンが動物性のものを一切摂らないという多くの配慮を必要とする食生活と定義されるのに対し、「フレキシタリアン」はどうか。「フレキシタリアン」は、英語の“Flexible”(柔軟さ)と“Vegetarian”(ベジタリアン)からなる造語だ。直訳すると「柔軟なベジタリアン」を指し、このカテゴリーは「肉・魚は時々食べる程度に減らし、卵・乳製品等の動物性食品は食べる人」を定義する。日本語で言うところのゆるいベジタリアンだろう。では実際、現代ではどれほど割合でそれぞれの食生活が支持されているのだろうか。

※1参照:株式会社三菱総合研究所『令和2年度 フードテック振興に係る調査委託事業の報告書』「3. 生活スタイルの変化に係る調査」
https://www.maff.go.jp/j/kanbo/attach/pdf/ftitaku-4.pdf

※2参照:The Vegan Society「70 years of The Vegan Society “Ripened by human determination"」
https://www.vegansociety.com/sites/default/files/uploads/Ripened%20by%20human%20determination.pdf

世界の食文化の実態と日本における認知度

グローバルに市場調査を行っている「Ipsos」が、2018年8月に発表した「An exploration into diets around the world」(28の国、大人20,313人を対象に行った調査)(※3)によると、世界の食生活の分布はオムニボア:73%、その次に多いのがフレキシタリアン:14%という結果になった。

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出典:Ipsos「An exploration into diets around the world」p.2

この調査では、食生活の選択の判断基準として、健康面・信条面以外にも、世帯所得の差や年齢、宗教の違いが大きな影響を及ぼしているとの言及があった。確かに、肉や魚は野菜に比べると高価であり、毎日の食卓にそれらを用意するのが難しいという家庭事情も食生活に大きく影響するだろう。

▼イギリスにおける食生活と、周辺環境の特徴

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出典:Ipsos「An exploration into diets around the world」p.8

上段:35歳〜64歳の人は78%がオムニボアであり、35歳以下は67%に留まった
中段:世帯収入が中~高所得層においては、76%がオムニボアであり、低所得層では63%に留まった
下段:低所得者層では、フレキシタリアン14%・ベジタリアン12%となり、中~高所得者層のそれ(フレキシタリアン8%/ベジタリアン6%)よりも高くなった

では日本国内はどうだろうか。三菱総合研究所の発表(※1)によると、2017年から2019年までの2年間で、フレキシタリアン・ベジタリアン・ヴィーガンなど、食肉を減らす食生活を選択する人の割合はどれも増加している。その背景には、SDGsへの関心の向上が関係しているようだ。確かに、「環境配慮」や「動物愛護」の観点から、週に1度、肉を食べない日を過ごす取り組み「No Meat Monday」はSNSを中心に流行している。肉の食感を再現した大豆を主成分とする「大豆ミート」は年々売り上げを伸ばしており、2025年にはその市場規模は40億円になると言われている。(※4)冒頭で挙げた、ハンバーガーチェーン店のベジ化も、この食生活の変化のひとつと言えるだろう。

一方で、大豆に限って言えば、肉の代用として活用するには、まだ改善の余地も大きい。肉と同量の栄養を大豆で摂ろうとした場合、肉の3倍の量の大豆の摂取が必要とも言われている。この急な大豆需要の高まりを受け、大豆農場の拡大のために森林伐採が進み、生産過程における農薬の多用による土壌汚染や、海水の汚染など、新たな問題も見えてきている。しかし緩やかな食生活のシフトチェンジによってもたらされる結果は長期的にみたらポジティブな側面の方が大きいだろう。

SDGsをフックに「環境と食文化の密接さ」を知る機会が増えた結果、実験的に食生活を変えてみた人も多くいるのではないか。また、年齢とともに肉のあぶらが食べられなくなってきた、という話もよく聞く。こういった味覚や身体の変化も食生活を顧みるきっかけになっており、国内は隠れゆるベジタリアンが多く存在するのかもしれないとも思わされる。

※3参照:Ipsos「An exploration into diets around the world」
https://www.ipsos.com/sites/default/files/ct/news/documents/2018-09/an_exploration_into_diets_around_the_world.pdf

※4参照:日本能率協会総合研究所「大豆ミート2025年に40億円規模に MDB Digital Search 有望市場予測レポートシリーズにて調査」
https://prtimes.jp/main/html/rd/p/000000032.000035568.html

ひとり一人の「ゆるいアクション」が未来に与えるインパクトを想像する

The Vegan Societyが提供しているサービスで「あなたがヴィーガンになることでどれだけのインパクトがあるか」が計測できる。
https://www.vegansociety.com/sites/default/apps/veganalyser/index.html?page=1

このサービスでは居住地域と年齢、現在の食生活を入力するだけで試算をしてくれる。仮に、東アジア在住、20歳、オムニボアを条件にすると、これからヴィーガンになって1年間生活するだけで、少なくとも115頭もの動物の命を救えるという。

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写真:東アジア在住、20歳、オムニボアを条件に試算

例えば、これが週に1度肉食をやめるフレキシタリアンだとすると、単純計算だが年間約16頭の動物の命を救い、その分、微塵ながらも環境負担の軽減にも貢献できているということになる。ベジタリアンやヴィーガンを語るのはハードルが高いと思っている人も多だろうが、フレキシタリアンのゆるさと、そのゆるアクションが与えるインパクトを知ると、「これぐらいから始めてみる」という価値は十分にある。

2021年4月1日にPR TIMESが企画するプロジェクト「エイプリルドリーム」(4月1日に単に笑えるネタではなく実際に企業が叶えたい夢を発信するプロジェクト)の一環として、食を起点に持続可能性を推進する社会企業Green Monday Japanより発表されたプレスリリースでは、日本人口の3分の1がフレキシタリアンを選択している、という内容になっていた。(※5)このリリース内容が現実になる日は来るのだろうか。流行に突き動かされた食生活ではなく、体と信条に寄り添いながら、その先に広がる未来を想像した、自分なりの食のあり方を模索してみて欲しい。

※5参考:Green Monday Japan「日本でもプラントベースのトレンドが本格化!ついに、日本国民の3分の1がフレキシタリアンに。」
https://prtimes.jp/main/html/rd/p/000000003.000054615.html

 

文:おのれい
編集:白鳥菜都