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「1.5度目標」って何のこと?地球の未来を考えるCOP26ふり返り

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2021年10月31日から11月13日まで、イギリスのグラスゴーにて国連気候変動枠組条約第26回締約国会合(以下、COP26)が開催された。若者を中心に支持を集める韓国の4人組アイドルグループ「BLACKPINK」がCOP26の広報大使として動画でメッセージを伝えた。そして、開催地である英国・グラスゴーの現場ではスウェーデンの環境活動家、グレタ・トゥーンベリさんをはじめとした若者がそれぞれスピーチ、パフォーマンスなどを行い各国首脳に向けたアクションを行った。様子はSNSで拡散され、現地に赴くことのできなかった人々にも届き、日本でも開催に合わせて「世界気候アクション1106」が実施された。

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画像:Fridats For Future Japan

では、そもそもCOPとは何なのだろうか。

COPとは「Conference of the Parties」の略で広く締約国会議を意味する。国連の「気候変動枠組条約」に参加している国が集まる会議で、今回で26回目。BBCでは以下のように説明されている。

年々上昇する地球の温度と、それに伴い激しさを増す自然災害、北極などの氷が解けることによる海面の上昇、熱波による森林破壊など、数々の現象によって地球と地球上に住む様々な生き物の生存が危うくなっている状態を前に、国際社会がどのような対策をとるのか、話し合うための会議だ。

(※1)

今回はCOP26に関しての争点や、今後の課題についてをまとめてみた。

※1 引用:BBC NEWS JAPAN「COP26とはいったい何なのか 2分で解説」
https://www.bbc.com/japanese/video-59129799

COP26の争点

〈1〉 1.5度目標

COP26で各国が目指していたところは共通していた。それは世界の平均気温上昇を産業革命前に比べて1.5度未満に抑え、気候変動がもたらす最悪の事態を回避することである。この1.5度という数値は 、気候変動を評価する主要機関である国連の「気候変動に関する政府間パネル」(以下、IPCC)が2018年10月8日に発表した特別報告書に記載されている。(※2)

気温上昇が1.5度を超え、気候変動が進んだ場合の悪影響のリスクを具体的に述べれば、異常気象、海面上昇、健康への悪影響、食料不足、水資源の不足などが挙げられる。また、IPCCは、平均気温の上昇が1.5度になると、50年に1度という高温は8.6倍に、また10年に1度という大雨の頻度も1.5倍になるとしている。このような命の危険にも繋がりかねない異常気象は、農作物の生育に影響を及ぼす他、熱中症や食中毒の増加など私たち生き物の健康にも影響を与える。
加えて国連環境計画(UNEP)は、2021年11月に各国が2030年に向けて掲げた温室効果ガスの削減目標を達成しただけでは、世界の平均気温は今世紀末までに少なくとも2.7度上昇するとの見通しを発表しており、COPでの対策強化を求めていた。(※3)

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(写真:小野りりあん撮影)

1.5度という目標に関しては、各国の合致が争点であったが、COP26の成果文書「グラスゴー気候協定」では「世界の平均気温の上昇を1.5度に抑える努力を追求することを決意する」とされた。6年前の「パリ協定」の文書では「気温上昇を2度未満に保つとともに、1.5度に抑えるよう努力する」と明記されていたのに比べると、一歩前進したように感じられる。加えて今回は、「2022年末までに、30年までの温室効果ガス削減目標の再検討や強化を要請する」という文章も盛り込まれた。

一見前向きにも思えるこの文書であるが、今回COP26で議長を務めたアロック・シャルマさんは文書採択後、「それなりの信頼性がある形で1.5度以内の目標を維持したと言えるのではないか。しかし(今回の)上積み部分を巡る意気込みは低調であり、我々は自らの約束を守ることでようやく生き残っていける」と釘を刺している。(※4)

この1.5度目標を達成するには各国の不断の努力が必要であり、道のりは険しいものであることは確かである。

※2 参照:国連の気候変動に関する政府間パネル(IPCC)「Global Warming of 1.5 ºC」
https://www.ipcc.ch/sr15/

※3 参照:国連環境計画(UNEP)「Emissions Gap Report 2021」
https://www.unep.org/resources/emissions-gap-report-2021

※4 参照:英国政府COP26公式ウェブサイト「COP26 PRESIDENT REMARKS AT CLOSING PLENARY」
https://ukcop26.org/cop26-president-remarks-at-closing-plenary/

 

〈2〉 化石燃料・石炭火力の廃止

地球温暖化の主犯とされる化石燃料に関する議論もまた、盛んに行われた議題の1つだ。

今回のCOP26では合意文書「グラスゴー気候協定」に初めて化石燃料や石炭への対策が明記された。シャルマ議長は特に、「温室効果ガスの最大の発生源である石炭の使用を段階的に廃止する」との合意達成を主な目標に掲げていた。しかし、「自国の発展にはまだ化石燃料を使う必要がある」と強く主張するインドが採択直前に「段階的な縮小」という文言への変更を提案し、最終的に表現が弱まった文言が正式に認められた。

また、石炭火力発電の廃止に関しても課題は残る。温室効果ガスの排出対策を取っていない石炭火力発電の廃止を求める署名では英独仏や欧州連合(EU)やインドネシア、韓国など46カ国・地域が署名した。シャルマ議長は、11月4日に英政府が主催したイベントで「石炭火力の終わりが見えてきたと確信している」と強調している。しかし、この署名には中国や米国、日本も参加せず対応が分かれた。日本は今後も石炭火力の活用を続ける方針を維持しており、廃止を求める圧力が国内外で強まる可能性がある。

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(写真:小野りりあん撮影)

こうした日本のCOPでの立場表明は、不名誉な賞の受賞にも繋がっている。それが化石賞である。化石賞とは、気候変動問題に取り組む世界的な組織であるClimate Action Network(以下、CAN)が石炭消費量を削減していくことに対して積極的な姿勢を見せていない国に授与する賞のことであり、日本はCOP25でも受賞している。CANは今回のCOP26において、「岸田文雄首相が演説で、日本だけでなくアジア全体で、化石燃料と同様に水素とアンモニアを燃料としてゼロ・エミッション化を推し進める」と表明したことを理由とし、日本を化石賞2位に選んだ。

ゼロ・エミッションとは、あらゆる廃棄物を原材料などとして有効活用することにより、環境を汚染する廃棄物を一切出さない資源循環型の社会システムをいう。狭義には、生産活動から出る廃棄物のうち最終処分(埋め立て処分)する量をゼロにすることを指す。しかし、水素・アンモニアを使った化石燃料の脱炭素化について、脱原発・自然エネルギーに関する取材を行うジャーナリストの志葉玲さんは「アンモニアを化石燃料からつくる際にCO2が発生する。再生可能エネルギーを使って生産した「グリーンアンモニア」を専焼するならともかく、石炭を混ぜたらゼロエミとは言えない」(※5)と指摘している。また、気候変動の進行を止め、持続可能なエネルギー社会を実現するために、日本にある石炭火力発電所を2030年までにゼロにすることを目指すキャンペーン「JAPAN BEYOND COAL 」は「脱石炭に向かう上での回り道になる」としレポートで水素・アンモニア発電の問題や効果についてをまとめている。(※4)その他、岸田首相のスピーチでは1.5度目標の達成や気候変動目標の強化が述べられなかったことは今後の課題としても挙げられる。

日本は毎年、気候変動が起因とも言われるような豪雨や台風、高潮などの被害を受けている。そういった被害がより甚大になることを事前に防ぐために数値目標の設定や気候変動対策があるが、日本の1.5度目標や各国が連携して取り組みを行うための署名へ不参加などは今後の日本の立場にも繋がってくる点において不安も募る。

※5 引用:志葉 玲 「報ステの解説が酷い!岸田首相「化石」演説、COP26 で「火力ゼロエミ化」強調」
https://news.yahoo.co.jp/byline/shivarei/20211109-00267208

※6 参照:NPO法人気候ネットワーク Japan Beyond Coal
「水素・アンモニア発電の課題:化石燃料採掘を拡大させ、石炭・L N G 火力を温存させる選択肢」
https://beyond-coal.jp/beyond-coal/wp-content/uploads/2021/10/posision-paper-hydrogen-ammonia.pdf

COP26を終えて、私たちにできること

今回のCOPをどう受け止めればいいのだろうか。閉会を1日延長し行った議論の末の決定は果たしてこの国や、地球の数年後、数十年後の未来にとって有益な決定となったであろうか。グレタ・トゥーンベリさんはTwitterで「COP26は終わり。まとめると『ブラ・ブラ・ブラ』」とCOPでの各国の姿勢を批判した。かねてからグレタさんは各国政府や産業界の地球温暖化対策は、約束に行動が伴っていないと訴えている。今回のCOP26でも、長い議論がなされたが、具体的に状況を前進させるようなアイデアは登場していない。

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今年行われた自由民主党総裁選挙の際に岸田文雄首相が述べた「気候変動対策としてのLEDと節水」や麻生太郎衆議院議員の「気候変動によって北海道の米は美味しくなった」という旨の発言などはこれまで述べてきたような気候変動の現状や対策から見れば、前者は対応として不十分であること、後者は科学的根拠に基づかない誤りであることは明らかである。

ただ、政治家に限らず日本全体で見ても気候変動に対する関心や認識が低いこともまた問題である。風土・制度のいずれもアップデートしていかなくては前へは進めない。次回のCOP27はエジプトのシャルムエルシェイクで開催される。その時までに、日本や世界はどこまで未来のことを考えて行動できるようになっているだろう。そしてあなたは今、気候変動対策のために、どのようなことを行うことができるだろうか?

 

文:宮木 快
編集:白鳥菜都
画像:Fridats For Future Japan、小野りりあん他