よりよい未来の話をしよう

タトゥーはタブー?私の体は私のもの

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筆者には昔から、タトゥーへの憧れがある。いつか入れたいな、いつか入れてやると思いながら、毎年タイミングを逃し続けている。この話をすると、「ええ!」と驚く人もいれば、「やめときなよ」と諭す人もいるし、「いいね、やっちゃえ!」と後押ししてくれる人もいる。

タトゥーの話をするとさまざまな声がかけられるが、あなたはどんなイメージを持っているだろうか。よく、日本の任侠映画やドラマ、ヤンキー漫画なんかで見るような、竜や虎など力強い模様をイメージするかもしれない。あるいは、海外スターのような派手な柄を思い浮かべるのかもしれない。いずれにせよ、どことなくタトゥーは近づいてはいけない、タブーだというイメージがあるように感じる。果たしてそれらのイメージは、どのくらい現代のタトゥーの実態と合致しているのだろうか。

タブーなのは日本だけ?

前述の通り、日本ではタトゥーをタブー視する風潮がまだあると言えるだろう。タトゥーを入れたいと言って反対される時に、よく言われることがふたつある。ひとつは「温泉には入れなくなっちゃうよ」という意見。実際に、法的根拠もないにも関わらずタトゥー・入れ墨NGとしている温泉は数多くあり、2015年時点の観光庁のアンケート(※1)では半数以上の温泉施設が入浴不可としている。もうひとつが、「仕事に影響が出るんじゃない?」と言う忠告だ。筆者は募集要項にタトゥーNGと明記している企業は見かけたことがないのだが、この忠告は就職活動の時にもよく聞いた。

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出典:国土交通省観光庁「入れ墨(タトゥー)がある方に対する入浴可否のアンケート結果について」(2015)

一方で、海外を見渡せば、タトゥーがこれほどまでにタブー視されている国はあまりないだろう。スポーツ選手や、アーティスト、俳優など著名人が公の場でタトゥーを披露することも度々ある。2019年にマーケティング・リサーチ会社のIpsos社が行った調査ではアメリカ人の約30%が1つ以上のタトゥーを入れていると言う。(※2)

では、なぜ日本ではこんなにもタトゥーがタブー視されているのだろうか。調べてみると、大きな原因としては、犯罪やヤクザと結びつけて考える人が多いことにありそうだ。日本におけるタトゥー文化の始まりとしては江戸時代にあった、犯罪者への刑罰としての入れ墨が有名だ。腕に線が入れられるものや、額に「犬」といった文字が書かれるようなものまで存在していた。中高生時代に日本史の資料集などで見かけた覚えのある人もいるかもしれない。その後、政府によって1度は入れ墨自体が違法とされたものの、戦後には合法に戻る。戦後は、今も根深く残るタトゥー=ヤクザといったイメージが映画を中心に広がっていくこととなった。これによって、タトゥーには反社会的なイメージがついて回ることになったのである。

2014年に関東弁護士連合会によって行われたアンケートでは、「イレズミやタトゥーと聞いて何を連想するか?」の問いに「アウトロー」と答えた人が55.7%、「犯罪」と答えた人が47.5%にも上った。(※3)同アンケートでは、年齢層が高いほど、タトゥーへの拒否感が強いことも読み取れる。

若い世代は特に、「なぜかわからないけれどタトゥーはいけないものだ」と思っている人も多いのではないだろうか。それは、長い歴史のなかで広がったイメージが上の世代からそのまま引き継がれてきたからかもしれない。合わせて、「親からもらった体を大事にしなさい」というように、子どものタトゥーやピアスに反対する声は今でもよく聞く。自分で考えるよりも先に社会的なイメージに引き寄せられている人も多いのではないだろうか。

※1 参照:国土交通省観光庁「入れ墨(タトゥー)がある方に対する入浴可否のアンケート結果について」(2015)
https://www.mlit.go.jp/kankocho/topics05_000160.html

※2 参照: Ipsos 「More Americans Have Tattoos Today than Seven Years Ago」(2019)
https://www.ipsos.com/en-us/news-polls/more-americans-have-tattoos-today

※3 参照:関東弁護士会連合会「自己決定権と現代社会 : イレズミ規制のあり方をめぐって : 平成26年度関東弁護士会連合会シンポジウム」(2014)

若者にとってはタブーではなくなり始めている

ここまで、根深いタトゥーのネガティブイメージを紹介してきたが、実はそんなイメージを払拭するように、日本でも若者の間でタトゥーは流行しつつある。発端はおそらくK-POPの再ブームや韓国ドラマ・映画の流行による、韓国の入れ墨文化の流入だろう。アイドルやアーティストがテレビ出演する際には、日本と同じようにテープで隠したり、モザイク処理がかけられたりということは未だにある。それでもSNSの発達により、日本よりもタレントたちがオープンにタトゥーを見せる傾向にある。人気アイドルのBTSやTWICE、MAMAMOOのメンバーなどもタトゥーを入れていることを明かしている。

Instagramでも多くのタトゥースタジオがアカウントを開設しており、数万人のフォロワーを抱えるお店も少なくない。なかには、「日本語OK」とプロフィールに記載している店舗もあり、日本からの顧客も少なくはないのであろう。

近年、日本で流行しているタトゥーはデザインもかつてのイメージとは少し異なる。太い線、はっきりとした色合いの派手なデザインよりは、小ぶりで柔らかな色合いのものが好まれるようである。モチーフも、竜や虎などではなく、木や花などの植物、または惑星や銀河を模したデザインなどを多く見かける。タトゥーは強さや怖さ、迫力を強調するものではなくなってきているようだ。

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あなたがタトゥーを入れる理由は?

タトゥーを入れる人は一体どんな理由で入れるのだろうか。筆者もタトゥーを入れたい1人でありながら、他の人がどんな理由でタトゥーを入れるのか気になった。もちろん、ファッション性や、デザインのおしゃれさといった観点から入れる人は多いだろう。しかし、話を聞いているとそれ以外の理由も浮かび上がってきた。

20代男性の知人は、他人から見える場所にも見えない場所にも複数のタトゥーを入れている。彼はタトゥーのことを「自己表現であり、意思の確認である」と語る。彼の体には、キャラクターなどのモチーフも多いが、文字も多い。自らの望む社会の在り方や、彼自身が普段からよく語っている信条などが刻まれている。他者からの見え方よりも、自身との約束としての側面が強いため、見える場所であろうとも、見えない場所であろうともあまり関係がないのだと言う。

さらに、20歳になってすぐにタトゥーを入れた、現在20代の女性は、タトゥーを入れたことによって、「自分で選択できるようになった」という。いわゆる「清楚系」な印象を持たれやすい彼女は、これまでは「社会的なイメージによって、自分自身の服装や髪型、体型などの選択肢を狭めてしまっていた気がする」と語る。しかし、ある種1番消えにくく、変化しにくいタトゥーを、思い切って社会のイメージから逸れて入れてみたことで、自分の体をコントロールできるようになったと言うのである。

ボディポジティビティや「My Body My Choice」(※4)といった言葉をよく耳にする昨今、タトゥーもこれらの選択肢の1つとして浸透し始めているのかもしれない。自分の体を社会から取り戻す、自分のものとしてコントロールするための手段としてのタトゥーの在り方もあるのだ。

※4 もともとは、人工妊娠中絶制限の法制度への反対を示すスローガンとして広まった

固定観念に縛られずに

今や、タトゥーの持つ意味合いやイメージは若者の間では変化しつつある。かつてのイメージだけで、タトゥーをしている人を怖い人、危ない人と見なしてしまっているとしたら、それは思考停止と言えるのではないだろうか。

タトゥーを入れるも入れないも当人の自由だが、イメージだけでジャッジせずに、話を聞いてみるのはいかがだろうか。タトゥーの裏側には人それぞれ、思いのほか興味深いストーリーが潜んでいるのかもしれない。


文:白鳥菜都
編集:森ゆり