よりよい未来の話をしよう

食から社会問題を考える。 新大久保発フードラボ 「Kimchi, Durian, Cardamom,,,」の挑戦

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2021年3月、新大久保駅直上にオープンしたフードラボ「Kimchi, Durian, Cardamom,,,(キムチ、ドリアン、カルダモン、、、)」(以下、KDC)。
KDCは食を通じた新たな世界へのチャレンジを支援するプラットフォームであり、東日本旅客鉄道株式会社、株式会社オレンジページ、株式会社CO&CO、株式会社インテンションの4社間で連携し、運営されている。新大久保という色とりどりの文化が交差する土地で、KDCはどのような未来を実現しようとしているのか。運営者の株式会社オレンジページ 代表取締役社長 一木 典子氏、株式会社CO&CO 事業統括部長 伊崎 陽介氏のインタビューを交えて紹介する。

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「Kimchi, Durian, Cardamom,,,」の取組み

施設名称である「Kimchi, Durian, Cardamom,,,(キムチ、ドリアン、カルダモン、、、)」は、各国の食文化の要衝・新大久保に集まる食材の個性が混在する面白さを表現しているという。
そのKDCが入居するのはJR新大久保駅直上の駅ビル内の3・4階。3階は一般客も使用できるシェアダイニングスペース、4階にはファクトリーキッチンと会員制コワーキングスペースが設けられている。

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3階のシェアダイニングスペースには3つの厨房と1つのドリンクカウンターが備え付けられている。このスペースには60席ほどが確保され、一般客向けに期間限定のポップアップショップ(飲食店)を展開することができる。折々のテーマに合った世界各地の料理の提供や、食に関連したテーマを扱う起業家が、自分の店舗を持つ前のテスト出店をおこなうことが可能だ。

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また、4階部分にはキッチンが併設されたコワーキングスペースが設置されている。ファクトリーキッチンには各種の調理製造機器が備えつけられており、商品開発や小ロットの商品加工・製造・包装をおこなうことが可能だ。コワーキングスペースは開放的な作りになっており、単に仕事をするのみならず「食を通じて社会を変革したい」という共通の関心領域を持つ人々のコミュニティ形成にも寄与している。

4階で製造した商品を3階のポップアップショップでメニューに取り入れたり、販売したりと、上下の階で連携した機能を持つことで、まさに実験のように事業を”お試し”できるのである。

KDCは食×起業の芽を育てる

このように「食文化を通じた社会変革」をテーマにサービスを展開するKDC。運営会社の株式会社オレンジページ 代表取締役社長 一木 典子氏(構想当時は、東日本旅客鉄道株式会社 山手線プロジェクトグループリーダー。構想段階から事業ローンチまでこのプロジェクトに関わる)によると、そのお手本となったのは、スペイン・バスク地方のサン・セバスチャンに2019年7月にオープンした「LABe」(※1)や、米シリコンバレーの「KITCHEN TOWN」(※2)、「MISTA」(※3)だという。これらは食分野における起業家にコミュニティ形成の場と資金提供をおこなっている。

この例と同様に「KDC」も先述したようなコミュニティ形成の場に加え、ファイナンスに関わるサポートの機会を起業家に提供している。具体的には、初期投資を抑えて挑戦を可能にする各施設の提供のほか、「Future Food Fund」(オイシックス・ラ・大地株式会社のコーポレートベンチャーキャピタル)やクラウドファンディングサイト「CAMPFIRE」などと連携しており、条件を満たせば広報宣伝やファイナンスサポートが受けられる。

中小企業庁によると、日本における起業活動は諸外国と比べて低い水準で推移しており、起業希望者などの潜在的な起業家も減少している状況が確認されている(※4)。そのような中、「KDC」は新大久保という多様な食文化が行き交う土地で、チャレンジのハードルをとことん下げ、食に関わる起業家を増やす取組みを進めている。

※1 LABe:欧州ガストロノミー界の最高学府「バスク・カリナリー・センター(以下、BCC)」が運営する、デジタルガストロノミー・ラボ。オフィス機能の他、スタートアップの「研究所」としての機能も果たす。
https://www.labe-dgl.com/en/

※2 KICHENTOWN:スタートアップの支援をするインキュベーターモデルを本格的に食領域に適用し、コミュニティ機能も充実させたシェアキッチン&ラボ。日本で食品宅配を行うオイシック・ラ・大地が設立した「Future Food Fund」とも提携している。
https://kitchentowncentral.com/

※3 MISTA:スイスのジボダン社が運営する、食品業界向けの新しいイノベーションプラットフォーム。スタートアップ企業と大手企業がアイデアや製品、人材、投資などを最適化するための、インキュベーターやアクセラレーターよりもさらに網羅的なオプティマイザーとして位置付けられる。
https://mistafood.com/

※4 参考:「令和元年度(2019年度)の中小企業の動向」(中小企業庁)
https://www.chusho.meti.go.jp/pamflet/hakusyo/2020/chusho/b1_3_3.html

(2021年8月22日に利用)

企画・運営者に聞く、KDCの魅力と今後の展望

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(写真左)株式会社CO&CO 事業統括部長 伊崎 陽介氏
(写真右)株式会社オレンジページ 代表取締役社長 一木 典子氏

起業に限らず、さまざまな取組みの場として機能するKDC。その魅力や今後の展望について、株式会社オレンジページ 代表取締役社長の一木氏と株式会社CO&CO 事業統括部長の伊崎氏にお話を伺った。

まず、くじら肉の試食会、難民ごはん(※5)やKDC Food College(※6)など、KDCが主催するさまざまなイベントはどのように企画をしていますか。既にニーズがあるからやる(マーケット・イン)のか、明確なニーズがあるか不明瞭でもKDCから伝えていきたいことを発信している(プロダクト・アウト)のか、どちらでしょうか。

伊崎:必ずしも、マーケット・インかプロダクト・アウトという二択に絞っているわけではありません。それよりも、KDCではラボ機能、「試す」「見える化する」という観点を重要視しています。

こんなテーマやイシューを「試したい」、「見える化したい」という意思が価値の創造につながると考えています。新大久保は多文化を受け入れてきた土壌があるので、この場所から社会問題の見え方を「クリエイティブでワクワクするもの」に変えていくことを発信したいと考えています。

※5 NPO国連UNHCR協会プレスリリース「【WILL2LIVE Partners 】出張コトラボ新大久保 世界難民の日スペシャル講座! 故郷の味を教わる難民ごはん料理教室」 (既に終了しています)
https://unhcr.will2live.jp/news/06/07/0620partners-orengepage/

※6 KDC HP「Food College9月コース参加者募集!」
https://kdc-foodlab.com/event/09-1/

KDCが新大久保に拠点を構えることの面白さとはなんでしょうか。

一木:新大久保は、山手線の駅がある街の中でも「国際性」と「食」のイメージがとても高い駅なんです。コリアンタウンのイメージが強いかもしれませんが、じつはアジア各国の料理店やハラルフードの食材ショップも多い街です。なので、食に関心の高い方、食業界に携わる方の間では食材調達に訪れている、身近な街でもあります。その点、フードラボとの親和性は高いと感じています。

また、街中にZ世代がとても多いのも特徴です。コロナ前は地方の高校生が東京に修学旅行に来たときに訪れるのが、原宿と新大久保だったというくらい。インスタ映えするスイーツを食べ、韓国の化粧品、ミュージシャンや俳優のグッズなどのショッピングを楽しむそうです。なので、KDCにおしゃれなアイスクリームのお店が出店し、インスタマーケティングを強化したときには、一定期間でかなりZ世代とのタッチポイントを作ることができました。

オープンして数ヶ月のいま、改めて感じているKDCの魅力を教えてください。

伊崎:KDCには食を起点としつつソーシャル、エシカル、SDGs、サーキュラーエコノミーなど、多様な分野に関心を持つ関係者が集っています。そのグラデーションが面白いですね。また、そうした人的ネットワークも含め、それぞれの目的を実現するアセットがそろっているということが魅力だと思います。あと、一般的なコワーキングスペースだと肩書からコミュニケーションが始まることも多く、どうしても打算的になってしまう部分がありますが、KDCに集まる方は、「食」という共通の関心領域がありますから、お互いへの純粋な興味でつながり合える人が多いです。「食」領域の方々は、ソーシャルな課題解決を目指されている方が多いのも魅力の1つと言えます。

一木:KDCでは、おそらく“世界で初めて”ということがたくさん起こっています。たとえば、いま注目の高たんぱく・低糖質食としてローンチされて間もない「フジッコダイズライス」を使った絶品パエリアが、KDC内の連携により、発案から数日のうちに3階のシェアダイニングで提供されることになりました。また、まだ知られていない食品を「世の中に広めたい!」と思った場合、KDCのコミュニティを活用することで、シェフとインフルエンサー的な家庭料理家のネットワークに一気に発信できます。そこでおいしさが認められると、その食材をオーナーシェフが自店舗で採用して下さったり、3階のシェアダイニングでカジュアルな料理として提供することで、家庭でも気軽に楽しみたいというニーズを喚起して購買やふるさと納税につながったりと、並行して多次元なPRの取組みが可能です。

もう1つの例をご紹介すると、海藻は日本海域に1500種ほど生息しているそうなのですが、その多くはまだ食べられていません。ですが、それら海藻の中にはたんぱく質が3割も含まれているものもあり、代替タンパク質としても有望な食材なのです。それらの新しい食べ方を提案する企画も進んでいます。このように、未開拓の食資源を価値に変える研究や取組みが続々とKDCに持ち込まれています。どんどんこういった創造が起こっていくのが面白いですね。

今後、KDCを通じて実現したい未来を教えてください。

一木:日本のさまざまな産業の中で、食産業はまだまだアナログな面が強いと言われている業界で、イノベーションの余地が多くあると思っています。SDGsなどの機運が高まる中で、KDCで起きる取組みを通じて、食産業から生活者、コミュニティ、地球のウェルビーイングを高めることに貢献していきたいです。

伊崎:「食」をアップデートし、多種多様なものをみんなで生み出していくことが大事だと思います。新大久保から地方と都市の食を、あるいはそこを飛び越えて日本と世界の食をつなげたいと考えています。

食から社会課題を考えてみる

世界中で起きていることに何となく関心があるものの、どこか距離を感じている人はいないだろうか。食べることで身近に感じる社会問題もあるかもしれない。

海外の事例を参考にしつつ、元来、新大久保が持つ文化的土壌を生かしながら「食×起業」「食×社会課題」へのタッチポイントを身近に設け、社会の前進を図るKDC。今度の活動にも目が離せない。


取材・文:竹内瑞貴
編集:大沼芙実子