よりよい未来の話をしよう

なんで怖かったんだろう? メンタルヘルスを語ること

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コロナによって見直された人生観

新型コロナウイルスの感染に脅かされる生活も1年半が経った。度重なる緊急事態宣言の発出と収まらない感染拡大に、今後の生活を考える中で価値観が大きく変化した人もいるのではないだろうか。

BIGLOBEが2021年、全国の20代~60代の男女1000人を対象に行った「新型コロナウイルスワクチン摂取後の生活に関する調査」の結果によると、コロナ拡大によって人生観が変化したと回答した人は、全体の約6割にものぼった。

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出典:ビッグローブ株式会社「新型コロナウイルスワクチン摂取後の生活に関する調査」 https://www.biglobe.co.jp/pressroom/info/2021/06/210624-1

コロナ感染拡大により、不要不急の外出を規制されたり、在宅勤務が推奨されたりと、個人の意思に関わらず生活リズムに変化が生じた。多くの人が、急にできた時間の中で自分の生き方・人生を考えるタイミングになったのだろう。同調査では、人生観が「変化した」「やや変化した」と回答した596名に対して「新型コロナウイルス感染拡大前と比べて重要度が高くなったもの、低くなったもの」も聞いている。その結果、重要度が高くなったものとして「健康」と答えた人が83.2%にのぼり、コロナがその重要度を見直すきっかけになったことがよくわかる。

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出典:ビッグローブ株式会社「新型コロナウイルスワクチン摂取後の生活に関する調査」 https://www.biglobe.co.jp/pressroom/info/2021/06/210624-1

目に見えないウイルスとの戦いにおいて、免疫力を高めることの重要性がワイドショーでも繰り返し強調されるが、そもそも「健康」とはどういう状態をイメージするだろうか。
世界保健機関(WHO)憲章(※1)によると、「健康」は以下のように定義される。

「健康とは、病気でないとか、弱っていないということではなく、肉体的にも、精神的にも、そして社会的にも、すべてが満たされた状態にあることをいいます。(日本WHO協会訳)」

肉体にとどまらず、「精神的にも社会的にもすべてが満たされた状態」と明記されたとき、いまの日本で「健康です」と言える人は果たしているのだろうか?

※1 引用:公益財団法人 日本WHO協会HPより
https://japan-who.or.jp/about/who-what/charter/

海外におけるメンタルヘルスケア

アメリカのドラマや映画作品に目を向けてみよう。痛快な裁判でのやりとりが話題の大人気ドラマシリーズ『SUITS』(2011-2019)では、強気で負け知らずの弁護士たちがカウンセリングを受診しているシーンがよく登場するし、映画『午後3時の女たち』(2013)では、セックスレスに悩む主婦がカウンセラーに相談することから物語がはじまる。映画『マイ・プレシャス・リスト』(2016)では、飛び級でハーバード大学を卒業したティーンエイジャーがセラピストから課された「幸せになるためのリスト」を実行する中での成長を描く。欧米を中心とし、世界では弁護士や経営者など一般的にプレッシャーがかかると思われる職業だけでなく、立場や境遇を問わずカウンセリングが一般化し始めているのだ。

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セラピストによるマンツーマンのカウンセリング以外にも、「Self Help Group」「Group Therapy」などの自助グループの活動が盛んだ。椅子を円形にして座り、あるテーマに沿って、自身の体験や悩みを共有するこの方法は、自分だけの悩みに共感する人に出会える、同じ境遇で共に戦う仲間の存在を知ることができる、など様々な効果が期待できる。開催情報はオンラインプラットフォームサービス「Meet Up」などでも検索でき、手軽にアクセス可能だ。

メンタルヘルスのケアは、健康でいるためのセルフケアの一部として扱われているのだ。筋トレやヨガをするのと同じようにメンタルケアがおこなわれている。

精神病は恥ずかしい?根深いネガティブイメージ

では日本はどうだろうか?2019年にAIG総合研究所が発表した「働く人々のメンタルヘルスに関する意識調査と今後の論点」(※2)において、現代社会でストレスを抱えていると答えた人は全体の約9割にもなった。そしてそのメンタルヘルス不調への対処法については「ネットや本で情報収集し自力での克服を目指す」と回答した人が一番多く、49.1%にものぼった。心療内科・精神科を受診して相談する、と回答する人ももちろんいたが、大半はメンタルヘルスとの向き合い方の選択肢をあまり持っていないといえるだろう。
またこの調査では、そもそも精神病にかかっていること自体に恥ずかしさや後ろめたさを感じている人が一定数いることもわかった。「心の病だという診断を受けたくない」と回答した人が4割にのぼったのだ。

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これらの結果から、精神病を患うこと、そして心療内科や精神科を受診することに対する先入観やネガティブイメージが色濃く残っていることがよく分かる。では実際に精神科を受診するとどういうことが起きるのだろうか?

※2 引用:AIG総合研究所「働く人々のメンタルヘルスに関する意識調査と今後の論点」
https://www-510.aig.co.jp/assets/documents/institute/insight/institute-insight-03-ja.pdf

精神科って、怖いところじゃない

実は筆者も心療内科・精神科にネガティブイメージを持っていた1人だ。しかし、筆者は学生時代に、部活動の忙しさ・バイト先の社員からのイビリ・理想の自分と現実の自分とのギャップなどの複数のストレスが重なり、家から1歩も出られなくなってしまった時期があった。出かける準備をしても玄関で靴紐を結び始めると、涙が止まらなくなったのだ。

感情の起伏が激しさを増してきた頃、初めて精神科受診を決意した。ネットのクチコミを頼りに恐る恐る行った病院で、「初診の予約は3ヶ月待ちです」と言われ、衝撃を受けた。結局、地元の診療所で受診することに。そこでの会話は想像以上に淡々としていた。

医師:さあさあ、今日はどうしました?
筆者:◯◯に勤めているのですが、そこで先輩社員から~されていて。
医師:そっかー、そんなバイト辞めていいんじゃない?
筆者:部活も忙しくて辛いし…
医師:お休みください、って言ってみたら?
筆者:どこでも明るい子を演じないといけないプレッシャーがあって…
医師:うんうん、でも私はそういう印象は受けていないけど。誰かが決めつけた自分よりも、自分自身が知っていることの方が信頼できるんじゃない?

と、友人間のような会話を続けるうちに「あれ、なんでこんなに悩んでいたんだっけ?」と思えるようになった。そして私の症状はその日を境に快方に向かった。トリガーは、意外にも精神安定剤であった。病院で処方された精神安定剤の量が多すぎて、訪れた薬局のストックでは足りない、と薬剤師さんが焦りながらも申し訳なさそうに話しかけてきたのだ。その時、「え?そんなことある?というか、私そんなに大変なの?」と拍子抜けのような感覚になり、そのまま処方薬を受け取らずに帰路についた。

ちょっと独特な経験談で参考にならないかもしれないのだが、この受診が自分だけではどうにもできなかった苦しみから抜け出すきっかけになったのは間違いない。怖い場所と思い込んでいた精神科は、何度も通いたくなる小料理屋のようなあたたかさで迎えてくれた。未知の怖さから躊躇していまっているなら、「ちょっと寄ったよ」ぐらいの気持ちで話しに行ってみてほしい。

これからのメンタルヘルス

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もちろん、病院にかかることだけがメンタルヘルスケアではない。最近よく耳にする「メディテーション(瞑想)」も立派なケアのひとつだ。瞑想をするための専用施設がオープンしたり、音楽のサブスクリプションサービスでも「瞑想音楽」と入力すると環境音や、水の音などのリラックスミュージックのリミックスが出てくる。

それ以外にも、コロナ禍で一気に注目を集めたサービスがオンラインカウンセリングプラットフォーム「cotree」(https://cotree.jp)だ。登録時の簡単なタイプ診断アンケートを元に、約190名のカウンセラーの中から自分に合ったカウンセラーがマッチングがされる。将来や仕事の不安について、また対人関係の悩みなど、様々な悩みを持った人と専門家を結びつけるプラットフォームだ。オンラインサービスのため、ユーザーは自分の都合に合わせてカウンセリングを受けることができる。気軽に相談できる人がいる。そのことがもたらす安心感はコロナ禍を生き抜くのにとても大切な要素なのである。

最近では、Podcastで自身の精神病とホスピタル生活を赤裸々に話す人気インスタグラマーもよく見かける。あるインスタグラマーは、仕事に欠かせないスマホを回収されていた病院での生活に開放感があったと語り、都心を離れた隔離病院での療養生活のリアルをオープンに発信している。

日々状況が変わる”今”を生きる私たちにとって、体調管理をするのと同時にメンタルケアをすることは、大切なセルフケアの1つだ。仕事の合間に休憩時間が必要なように、人生にだって「心の休み時間」が必要だし、その休憩をとるかどうか、いつとるか、は心の自由なのだ。誰かに支えてもらうことは恥ずかしくない。必要なことであって、とっても当たり前のことなのだ。

 

文:おのれい
編集:白鳥菜都