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サードウェーブの次は? コーヒー業界におけるエシカルとは

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目覚めの1杯にはコーヒーを。
筆者もそうだが、その日のはじまりをコーヒーと共に過ごす人は多いのではないだろうか。

コーヒーを1日2杯以上飲むと健康になる?
紅茶文化が盛んなイギリスでは、実はコーヒーの方が人気が高い?
コーヒーにバターを溶かして飲むと、脳が活性化する?

にぎやかなほどに、次々と研究や噂が誕生するコーヒー業界において「エシカル」がムーブメントになりつつある。大量生産・大量消費の業界であるがゆえに、早くから業界における倫理性の改善を望む声や活動はあったが、近年、SDGsの影響も後押ししてその動きがより一層強まっている。

果たしてこの「コーヒー界におけるエシカル」は、サードウェーブに続く、世界的なムーブメントとなりえるのだろうか。

そもそも、サードウェーブコーヒーって何?

サードウェーブコーヒーとは、コーヒー文化におけるムーブメントのひとつを指す。2000年代にアメリカ合衆国で始まったこの流行(第3の波)は、コーヒーの品質にこだわるのが特徴だ。豆の産地はどこか、生産者は誰か、その豆の特徴に合う焙煎方法は何かなど、それ以前のカフェで楽しまれていたミルク入りのどっしりとしたブレンドコーヒーに留まらず、豆の個性を最大限に活かすコーヒーの楽しみ方が広がった。より個人の嗜好が深まったムーブメントとも言える。

そしてこの流行は、2015年のブルーボトルコーヒー日本初出店をきっかけに一気に国内に広がったといわれている。焙煎したてのコーヒー豆を使い、1杯ずつ丁寧にハンドドリップで淹れられた高品質なコーヒーを楽しむことができる。ブルーボトルコーヒーが火付け役となったこのコーヒーカルチャーは、まさにコーヒー界の黒船ともいえるインパクトであった。

思えば、その頃からカフェではよく「どこ産のコーヒーにしますか?」と数種類ある中から、好みの風味や味わいのものを選ぶことが多くなった。最近では、コーヒー診断により個人の嗜好に合わせたコーヒーを毎月届けるサブスクリプションサービス「PostCoffee」が登場するなど、サードウェーブコーヒーの到来とともに、コーヒーの楽しみ方も個人に寄り添った形で広がり続けている。

サードウェーブとエシカルと日本人と

日本はコーヒーが好きな国だと言えるだろう。
国内における1週間あたりのコーヒー飲用量は、2002年時点では10.03杯であったが、2020年には11.53杯に増加している。(※1)

その他の飲料との消費量の比較をみてみよう。1990年の消費量を指標(100)として、消費の増減を示した数値では、2019年の消費量は、コーヒー飲料が146であるのに対して、日本茶は88、果実飲料は60となった。コーヒーの支持率が高いのは一目瞭然である。(※2)

これほどまでに私たちの日常に染み込んだコーヒー文化。特に東京では、5分も歩けば2〜3軒のカフェや喫茶店を見つけることができるだろう。毎日の生活に欠かせない存在だからこそ、これからの地球を思いやったエシカルなアクションが大事なのだ。

品質にこだわるサードウェーブコーヒーのもうひとつの特徴が、トレーサビリティ=追跡可能性である。サードウェーブでは、「From seed to cup」という言葉がよく使われる。これは、「コーヒー豆(種子)から1杯のカップまで」という意味で、目の前の1杯が辿ってきたこれまでのストーリーを指す。この言葉が示すように生産地・生産者・加工過程などの品質に関わることと、適正価格で取引されているか、労働環境は最適か、環境配慮がされているかなど、その周辺の倫理観にも注目が集まるようになった。

では、この消費産業における倫理観=エシカルさとは、具体的にどんなことを指すのだろうか?

※1 参考:(一社)全日本コーヒー協会 「日本のコーヒー飲用状況」
http://coffee.ajca.or.jp/wp-content/uploads/2021/07/data04_2021-06b.pdf

※2 参考:(一社)全日本コーヒー協会「日本国内の嗜好飲料の消費の推移」
http://coffee.ajca.or.jp/wp-content/uploads/2020/11/data05_20201110.pdf

規模ではない、自分たちにできるエシカルを見つけたコーヒーショップたち

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「エシカルなコーヒー豆の調達とEthically Connecting Day ~エシカルなコーヒーの日~」(STARBUCKS COFFEE・全国)

長年コーヒー業界でエシカルを追い求めてきたのが、大手カフェチェーン「スターバックスコーヒー」だ。スターバックスコーヒーでは、使用するコーヒー豆の「エシカルな調達100%」を目指して、2004年に独自の調達ガイドラインを導入した。「品質基準」「経済的な透明性」を必須条件とし、「社会的責任」「環境面でのリーダーシップ」では第三者機関の評価を受けている。その約10年後、2015年には取り扱う豆全体の99%がエシカルに調達されるに至った。(※3)

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また、毎月20日を「Ethically Connecting Day」とし、生産地とのつながりを感じながらエシカルなコーヒーを楽しんでもらえるよう、実際に調達ガイドラインの認定を受けたエシカルなコーヒーを店舗で提供している。

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2021年8月25日には、創業50周年を記念した『スターバックス® スリー リージョン ブレンド®』の発売が発表された。エシカルなコーヒー調達100%を目指し活動を継続してきた三大生産地(「ラテンアメリカ」、「アフリカ」、「アジア・太平洋地域」)のブレンドであるこの商品には、これからの50年も「コーヒーに関わる全ての人々とともに持続可能な未来に向け歩んでいく」というスターバックスとそこで働く人たちの強いメッセージが込められている。手のひらに包み込まれたコーヒーの苗木のイラストから、優しさと熱意が伝わってくる。(9月8日より全国のスターバックス店舗(一部店舗を除く)で発売開始)

エシカル宣言、はじめます(TORIBA COFFEE・銀座)

東京・銀座に店を構えるTORIBA COFFEEは、2021年3月にエシカル宣言を表明した。目前に迫る地球危機を乗り切るために、一人ひとりが意識できることをコーヒーショップから提案していく、という試みだ。

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15ヶ条にもおよぶ約束事には、店舗で使用する備品・日常的に発生するコーヒーかすの活用、さらには店員が身につける制服に至るまで、ありとあらゆる場面でエシカルが語られている。(※4)

No,2テイクアウトカップをコンポスタブル化へ

 

No,10レシートの発行をやめます

 

No,12コーヒーかすのゴミを削減します

 

彼らは、この宣言期間を「2021年3月~Forever」としており、自分たちにできることを、地球と共に生きる方法のひとつとして提案している。また、TORIBA COFFEEではエシカル宣言以外にも、気候変動問題について考える映画上映会を開催している。どの取り組みにも共通するのは、価値観の押し付けではないという点だ。自分たちのステートメントを表明し、行動することで、その周りにいる人を巻き込もう、というのが彼らのエシカルさに対する姿勢だ。

全国展開する大手チェーン店も、街に根ざしたコーヒーショップも、エシカルにかける想いは変わらない。大切なのは、自分たちにできることを考え、自分たちのレベルで実現・体現することなのだろう。

※3 参考:スターバックスコーヒー ジャパン株式会社 プレスリリース
https://www.starbucks.co.jp/press_release/pr2015-1382.php

※4 掲載:TORIBA COFFEE インスタグラム
https://www.instagram.com/toriba_coffee/

ポストサードウェーブではない。「ポストこれまで」のエシカルさを体現するのは私たちだ

コーヒーが一般家庭で楽しめるようになったファーストウェーブ、カフェ文化の世界的な広がりを支えたセカンドウェーブ、そしていまなお広がりを見せるサードウェーブ。形を変えながら世界中で楽しまれ続けているコーヒーだが、根深い問題を抱えているのも事実である。

増え続ける世界中のコーヒー需要に応えるために、熱帯林を切り開き、コーヒー農園がつくられる。また、コーヒーの木を害虫や病気から守るために使用される化学薬品がその土壌・水質にもたらす影響はとても大きい。さらに、コーヒー生産者の立場の弱さを原因とする低賃金労働など、問題は山積みだ。
しかし、これらの生産過程における課題は「レインフォレスト・アライアンス認証」(※5)「有機JAS規格」(※6)「国際フェアトレード認証」(※7)などの認証のおかげで、少しずつ改善のプロセスが見られている。

では、私たち消費者の行動指針はどうだろうか?
ほっと一息つく時間を支えてくれるコーヒー。その1杯を、「地球と共に生きる1杯」にするために、私たちはどんなことに気づき・知り・行動できるだろうか。好みの味や居心地の良いカフェを探すのと同じように、自分に合った・自分にできるエシカルを探求していきたいものだ。

※5 レインフォレスト・アライアンス認証:人と自然のための共同行動を推進する認証。その認証製品または原料が、持続可能性の3つの柱(社会・経済・環境)の強化につながる手法を用いて生産されたものであることを意味する。
https://www.rainforest-alliance.org/lang/ja/about/rainforest-alliance-certified-seal

※6 有機JAS規格:農薬や化学肥料などの化学物質に頼らないことを基本として自然界の力で生産された食品を表しており、農産物、加工食品、飼料及び畜産物に付けられている。
https://www.maff.go.jp/j/jas/jas_kikaku/yuuki.html

※7 国際フェアトレード認証:その原料が生産されてから、輸出入、加工、製造工程を経て「国際フェアトレード認証製品」として完成品となるまでの各工程で、国際フェアトレードラベル機構(Fairtrade International)が定めた国際フェアトレード基準が守られていることを証明する認証。またこのラベルは、農場から認証製品として出荷されるまで完全に追跡可能である。(物理的トレーサビリティの適用)
https://www.fairtrade-jp.org/about_fairtrade/intl_license.php


文:おのれい
編集:篠ゆりえ