よりよい未来の話をしよう

SDGs×不動産 ~緑の建築であふれる未来都市~

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いま、世界の都市は灰色から緑色へと変貌を遂げようとしている。
無機質な高層ビルが連なり、コンクリートジャングルと形容されていた大都市の景観が、大きく変わりつつあるのだ。

いったい、世界でどのような変化が起きているのだろうか。

人間や鳥が住む樹木の家、「垂直の森」

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2014年、イタリアのミラノに革新的な高層マンションが誕生した。
Bosco Verticale(ボスコ・ヴェルティカーレ)と名付けられたこのマンションは、イタリア語で「垂直の森」を意味する。自然と調和した壮大なデザインは、建築家ステファノ・ボエリ氏によって設計された。ビル全体が樹木で覆われ、鳥などの生き物と共存する、まるでジャングルのような建物は、一目見ただけで環境や生物多様性に配慮していることがよく分かる。「垂直の森」には、合計800本の樹木、15,000本の植物、5,000本の低木が植えられており、これらは、湿度を調整し、酸素を生成し、ミラノの街から排出される二酸化炭素や微粒子を吸収する役割を果たしている。まさに、地球に優しい建物であると言えるだろう。

こうした建築物は、「グリーンビルディング(※1)」と呼ばれている。直訳すると「緑の建物」だが、人間の健康と環境への悪影響を最小限に抑えて設計された「環境に優しい建物」のことを指す。
2014年に誕生したこの「垂直の森」は、都市化と自然環境保護を両立したグリーンビルディングの先駆けとして世界中にインパクトを与えた。そして近年、こうした環境配慮型の建物は世界的にも増加傾向にある。
都市化が進めば、環境は破壊されるーー。そう思われていた大都市の「人間」と「自然環境」の関係性に、融合や共存という新たな可能性が生まれたのだ。
地球温暖化や生物多様性の喪失など、地球規模の環境問題が深刻化する中、グリーンビルディングはその解決策の1つとして、いま世界で大きな注目を集めている。

※1 建物の設置から設計、建設、運用、保守、改修、解体までのライフサイクル全体を通して、環境に配慮し、資源効率の高い構造を作成し、プロセスを使用する建築行為
参考:Green Building 米国環境保護庁
https://archive.epa.gov/greenbuilding/web/html/about.html

カーボンニュートラルへの挑戦

背景にあるのは、近年ホットワードとなっている「脱炭素」への動きである。
2020年10月26日、第203回臨時国会において、菅総理は「2050年までに、温室効果ガスの排出を全体としてゼロにする(※2)、すなわち2050年カーボンニュートラル、脱炭素社会の実現を目指す」と宣言した。この動きは日本だけではない。パリ協定を踏まえた国際的な脱炭素化の必要性を受け、世界123カ国・1地域がカーボンニュートラルに向けて大きく舵をきった。

じつは、不動産・建設業はCO2の排出量が多い産業である。国土交通省によると、不動産分野におけるCO2排出量は、日本全体のCO2排出量の3分の1を占めており、いまだ増加傾向にある。(※3)さらに、世界では急速に都市化が進んでおり、建設業界の需要は高まるばかりだ。経済活動が集中する世界各国の都市部では、大量のエネルギーが消費され、CO2の排出量は必然的に増加していくであろう。
こうした状況を受けつつも、持続可能な社会を実現していくためには、都市と建物それ自体がサステナブルでグリーンな存在へと変革することが強く求められる。このような背景に立ったとき、グリーンビルディングは、まさにカーボンニュートラルへの挑戦であり、都市化と自然環境保護の両立に向けたキーファクターであると言えよう。
では、具体的にどのような「グリーンイノベーション」が起きているのだろうか?

※2 「排出を全体としてゼロ」とは、二酸化炭素をはじめとする温室効果ガスの排出量から、森林などによる吸収量を差し引いてゼロを達成することを意味する。
参考:「2050年カーボンニュートラルについて」 環境省
https://www.env.go.jp/earth/2050carbon_neutral.html
※3 参考:「建設産業・不動産業:環境価値を重視した不動産市場形成にむけて」国土交通省
https://www.mlit.go.jp/totikensangyo/totikensangyo_tk5_000107.html

都市は未来志向へと変わりゆく

「グリーンビルディング」の中にも様々な指標や取り組みが存在するが、近年ではエネルギー消費量の収支を限りなくゼロに近づけたビルや住宅が、注目を集めている。これらは、ZEB(※4)やZEH(※5)と呼ばれ、欧米を中心に拡大しており、日本でも現在、経済産業省が普及に向けたロードマップを作成するなどして、力を入れて取り組んでいる。

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ZEBとZEHのキーワードは「創エネ・畜エネ・省エネ」である。従来の省エネはエネルギーを節約することだったが、これからは、エネルギーをつくって(創エネ)、ためて(畜エネ)、かしこく使う(省エネ)時代だ。太陽光パネルの設置やLEDなどの高効率照明・高断熱素材の使用、センサーによるエネルギー管理、廃棄物削減など、活用される技術や取り組みは多岐に渡る。そのほかにも屋上緑化や壁面緑化など、建物を植物で覆うことで建築物の温度上昇を抑制したり、空気を浄化させたりする工夫も見受けられ、環境に配慮した建物のあり方は、時代に応じてアップデートしていることがよく分かる。

まさにそれらの工夫を体現した、日本における取り組みの一例として、未来都市の期待が寄せられる「虎ノ門・麻布台プロジェクト(※6)」を見てみよう。

虎ノ門・麻布台といえば、オフィス街をイメージする人が多いだろう。そんなビジネスの中心が、いまグリーンな未来都市へと変貌を遂げようとしているのはご存じだろうか?
2023年の開業に向け再開発が進められる「虎ノ門・麻布台プロジェクト」では、”緑に包まれ、人と人をつなぐ「広場」のような街-Modern Urban Village-”をコンセプトに、街づくりが進められている。「Green&Wellness」をテーマに、自然と調和した環境の中で、多様な人々が心地よく生きられる都市生活を実現させようとしているのだ。
約8.1haの広大な敷地のうち、緑化面積は2.4ha。都心とは思えない規模の圧倒的な緑が創出され、人々に憩いの場を提供する。本プロジェクトでは、都市の低炭素化、生物多様性の保全、省エネルギー化、真に豊かな健康など、さまざまな課題の解決に取り組んでおり、街全体で再生可能エネルギーの電力を100%提供するという。

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(画像:森ビル株式会社提供)

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(画像:森ビル株式会社提供)

このように、都市はコンクリートの灰色から木々豊かな緑色へと変化しており、街や建物が主導して未来志向のライフスタイルを形成していく時代に突入したのだ。

※4 ZEB(ゼブ):net Zero Energy Building 
快適な室内環境を実現しながら、建物で消費する年間の一次エネルギーの収支をゼロにすることを目指した建物のこと
参考:「ZEB PORTAL」環境省
http://www.env.go.jp/earth/zeb/about/index.html (2021年7月20日に利用)
※5 ZEH(ゼッチ):net Zero Energy House 
外皮の断熱性能等を大幅に向上させるとともに、高効率な設備システムの導入により、室内環境の質を維持しつつ大幅な省エネルギーを実現した上で、再生可能エネルギーを導入することにより、年間の一次エネルギー消費量の収支がゼロとすることを目指した住宅のこと
参考:「ZEH(ネット・ゼロ・エネルギー・ハウス)に関する情報公開について - 省エネ住宅」資源エネルギー庁
https://www.enecho.meti.go.jp/category/saving_and_new/saving/general/housing/index03.html (2021年7月20日に利用)
※6 参考:森ビル株式会社 「虎ノ門・麻布台プロジェクト」https://www.mori.co.jp/projects/toranomon_azabudai/

グリーンビルディングが救うのは、地球だけではない?

日本をはじめ世界の国々には、その不動産がどのくらい環境や社会に配慮しているかを評価し、基準を満たした建物に認証を与える「グリーンビルディング認証」という環境認証制度が存在する。こうした制度の登録件数や認証件数は右肩上がりに増加が続いており、グリーンビルディングをめぐる動きは近年活発化している。

なかでも、米国発のLEED(Leadership in Energy and Environmental Design)は、国際的な認証制度として広く知られている。建築全体の企画・設計から建築施工、運営、メンテナンスにおける省エネルギーや環境負荷を評価することにより、建物の環境性能を客観的に示すことができるため、米国を中心に取得が拡大している。

そして近年では、同じく米国発のWELL(WELL Building Standard®️)にも注目が集まっている。LEEDが環境性能に重きを置いているのに対し、WELLは人の健康・ウェルビーイング(Well-being)にも焦点を当てているのが特徴だ。

先ほど紹介した、「虎ノ門・麻布台プロジェクト」でも、LEEDやWELLの予備認証を取得しており、環境に優しい不動産としてのお墨付きをもらっている。

人間は、生涯のうち約90%を建物の中で過ごすと言われている。「食べる」「働く」「暮らす」「学ぶ」「遊ぶ」など、建物はいつも人間活動の中心にある。グリーンビルディングの定義には、「人間の健康への配慮」も含まれており、人間の生活を豊かにすることも、その使命に含まれている。

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そもそも人間には、「自然と繋がりたい」という本能的欲求がある。
これはバイオフィリア(Biophilia)と呼ばれる概念である。建物の中に緑や自然光、水などを取り入れた空間デザインは、ストレスを減らして集中力を高め、人間の幸福度、生産性、創造性を向上させると言われている。

つまり、人が心身ともに快適で健康でいるためには、日常生活の中に緑の存在が必要不可欠ということだ。グリーンビルディングは、地球への環境負荷を減らすだけでなく、人間にとっても心地のよい環境を提供する、優しい存在なのである。

グリーンビルディングでSDGsが連鎖していく

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都市化と自然環境保護を両立するグリーンビルディングは、持続可能な社会の実現に貢献する存在であり、今後も大きく発展する可能性を秘めている。また、経済活動においてもSDGsが注目される近年では、不動産の価値においても「持続可能性」や「自然との共生」といったキーワードがいっそう重要視されていくだろう。

「エネルギーをみんなに そしてクリーンに」
「働きがいも経済成長も」
「住み続けられるまちづくりを」
「気候変動に具体的な対策を」
「陸の豊かさも守ろう」

これらは、SDGsの17の目標の一部である。どれもグリーンビルディングで解決ができるような気がしないだろうか。
環境に配慮したクリーンな建物の中で、自然と調和し、生産性と創造性を発揮して、幸福感を得ながら快適に過ごし、地球の豊かさを守っていく。人から建物へ、建物から都市へ、都市から地球へと優しさが伝わっていく。
このようにSDGsが連鎖する世界が生まれたら、それは本当の意味での持続可能な社会と言えるだろう。グリーンビルディングがあふれる未来都市には、こんな優しい世界が存在しているのかもしれない。

 

取材・文:篠ゆりえ
編集:大沼芙実子