よりよい未来の話をしよう

Z世代が考える「寄付」という投資のカタチ

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「貯蓄から投資へ」という言葉をよく耳にするようになった。
政府が掲げているスローガンで、現金・預金に偏った家計マネーを、株や投資信託などの成長マネーに向かわせようという動きだ。
長い間、「貯蓄は美徳」と教えられてきた日本では、投資に対して「ちょっと怖くてキケン」といったネガティブなイメージを持つ人も少なくないだろう。

QUICK資産運用研究所が2019年11月、全国5000人以上を対象に実施した「個人の資産形成に関する意識調査(※)」によると、「資産形成・資産運用の必要性を感じますか」と聞いた質問では、「あまり必要性を感じない」と「全く必要性を感じない」と回答した人は693人にのぼった。そのうち20代~50代の回答理由では「そもそも資産形成について考えたことがない」が最も多く、次に「リスクを取りたくないから」が続く。資産形成に関する関心の低さやマイナスイメージの根強さがよく現れている。
※参考:QUICK資産運用研究所 https://moneyworld.jp/news/05_00021537_news

しかし、「投資は社会をよくする仕組み」だとしたら、どうだろうか?

ブタの貯金箱に学ぶ金融教育

アメリカ生まれの「ピギーちゃん」を紹介しよう。
アメリカでは、ピギーちゃんと呼ばれるブタの貯金箱(Money Savvy Pig 通称:ピギーちゃん)を使って、子どもたちにお金の使い方を教えている。ピギーちゃんには、①SAVE(貯蓄)、②SPEND(消費)、③DONATE(寄付)、④INVEST(投資)、それぞれの投入口があり、お金を4つのお財布に分けて管理できる。アメリカの子どもたちは、幼い頃からこの貯金箱を通じて、お金の使い方や考え方を学んでいるのだ。

思えば、日本で生まれ育った筆者は、これまでお金の貯め方を教わることはあっても、お金の使い方について学ぶ機会はなかった気がする。日本人が「投資」に対して抱くネガティブなイメージは、無知ゆえの不安からくるものなのかもしれない。
そしてアメリカの金融教育において最も驚くべきことは、貯蓄、消費と同じレベルで「投資」・「寄付」が語られている点である。

投資も寄付も、誰かのために

意外に思われるかもしれないが、「投資」と「寄付」は実はよく似ている。
投資は、「今すぐに必要としないお金を持っている人が、今すぐにお金を必要としている人にお金を回し、良い社会をつくるために役立ててもらう」行為を指す。社債や株式を通じた企業への投資であれば、自分のお金を事業活動に充ててもらうことで世の中の発展に貢献し、投資先が大きな成果を出した場合にはより多くの配当を得ることができる、という仕組みだ。
そして、寄付は「自分のお金を、自分が共感した事業や団体にプレゼントする」行為を指し、受け取る成果は配当やモノではないが、社会貢献と同時に自分自身の成長や喜びに繋げることができる。

ピギーちゃんの4つのお財布で考えてみよう。
「貯蓄」と「消費」は、お金を使う主体が「自分」である一方、「投資」と「寄付」は、「自分以外のだれかを助けるため」にお金が使われていることが分かる。
これを理解しないで投資をすると、「いくら儲かった、いくら損した」といった「自分のため」のマネーゲームになってしまうが、投資はそもそも、自分たちが暮らす社会に役に立っている会社やいいものをつくる会社を応援する方法のひとつである。
つまり、「投資」も「寄付」も本質は一緒で、自分のお金が社会を巡っていき、自分に代わって社会をよくする仕組みなのである。

日本人は投資も寄付もしない?

日本における「投資」と「寄付」の現状は以下の通りだ。
日本銀行が発表した「資金循環の日欧米比較(※)」によると、日本の家計金融資産のうち、現金・預金の割合が54.2%であるのに対して、投資信託や株等への投資の割合はわずか13%である。

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他の国に目を向けてみると、アメリカは現金・預金の割合が13.7%で投資信託や株等への投資が44.8%となっており、日本とは真逆の割合である。欧州諸国は、日米の中間といったところであるが、いずれにしても日本人の現金・預金の割合が圧倒的に高いことがよく分かる。
※ 参考:2020年8月21日 日本銀行調査統計局「資金循環の日欧米比較」のデータをもとに筆者作成 https://www.boj.or.jp/statistics/sj/sjhiq.pdf
では、寄付市場はどうだろうか?

日本の寄付市場は拡大の一途をたどっている

「寄付白書2017(※)」の調査結果によると、20歳以上79歳以下の男女を対象にした2010年の個人寄付総額は4874億円だったのに対し、2016年は7756億と、約1.5倍にも増加している。この寄付活動拡大の背景にある大きな要因は、2011年に起きた東日本大震災である。実際、この震災をきっかけに初めて寄付をしたという人は多かっただろう。

しかし、上昇傾向にある日本の寄付市場もグローバルベースで比較をすると、まだまだ発展途上である。同調査の2016年度における「日米英韓の個人寄付総額比較」をみると、個人寄付総額の名目GDPに占める割合は、日本が0.14%、韓国が0.5%、イギリスが0.54%、アメリカは1.44%となっており、日本の寄付市場規模は諸外国に比べて小さいことが分かる。

こうした統計を見ると、「日本人は貯金が大好きで、投資も寄付もしない」と思う人もいるだろうが、はたして本当にそうなのだろうか?

ピギーちゃんの貯金箱の話を思い出してみると、アメリカでは子どもの頃から①SAVE(貯蓄)、②SPEND(消費)、③DONATE(寄付)、INVEST(投資)という4つのお金の使い方を学んでいるが、日本で見かける貯金箱は投入口がひとつのものばかりで、「貯金が大好き」というよりも、SAVE(貯蓄)やSPEND(消費)以外のお金の使い方を知らなかっただけなのかもしれない。
※出所:日本ファンドレイジング協会『寄付白書2017』インフォグラフィック(2017kifuhakusho-infographic.pdf (jfra.jp))

新しい寄付のカタチ―Learning by Giving― こどもに託すお金と未来

投資や寄付を進めていくためには、教育が大きなカギを握っている。
「株とは何か、投資信託とは何か」といった資産運用について学ぶ金融教育ももちろん大事だが、「投資や寄付が社会をよくする仕組みである」ことを考えると、社会貢献教育を進めることも市場を形成するプロセスとして非常に重要であろう。

ここで、日本ファンドレイジング協会が行っている社会貢献教育の一部を紹介しよう。
それが「寄付先を子どもたちに託すプロジェクト―Learning by Giving―」だ。

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写真:特定非営利法人 日本ファンドレイジング協会HP https://jfra.jp/lbg

このプロジェクトは、「寄付の使い道を子どもたちが考えて選ぶ」という新しい寄付のカタチだ。寄付先を決定するにあたり子どもたちは社会問題を学び、寄付先の団体を調べる。その上で自分たちで寄付先を決め、実際に寄付をする取り組みだ。Learning By Giving(以降:LbG)は、もともと世界一の投資家として知られるウォーレン・バフェット・ファミリーが生み出したもので、UCLAなどの大学で取り入れられ全米で大きく拡がっているプログラムである。

日本ファンドレイジング協会が運営しているこの日本版LbGは、2020年6月に開始した。きっかけは新型コロナウイルスの蔓延であった。コロナ対策で支給される特別定額給付金の一部を寄付したいと考える人たちの「どこに寄付すればよいかわからない」という悩みに答え、「寄付先の選択を子どもたちに託そう」という動きから始まったのだ。

子どもたちが様々な社会問題を知り、その解決に取り組むNPOの活動を学び、自分に何ができるかを考える。寄付者の想いと、それを受け取った子どもたちの想いが、支援の最前線で活動する現場に届く。そして、寄付者には子どもたちと、NPOから感謝が届くのだ。まさに寄付→投資(子どもたちによる寄付先の決定)→社会貢献→社会の前進という支援の輪が描かれている。

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写真:特定非営利法人 日本ファンドレイジング協会HP https://jfra.jp/lbg

寄付という行為は、一方的な働きかけではなく、寄付による成果が自分や未来に跳ね返ってくるものである。その成果は目には見えにくいが、寄付する側とされる側、いまと未来の「つながり」を生む。寄付は単なる社会貢献ではなく、学び、自己成長、人とのつながり、自己肯定感の向上、そして幸福感を生み出す立派な投資なのである。
日本版LbGのような最先端の社会貢献教育は、子どもたちが社会にあふれる様々な問題を自分ごと化して考える機会となり、「自分以外の誰かを助けるためのお金の使い方」を正しく学ぶことにも繋がっていくだろう。

大寄付時代の到来は目前に

近年では、日本でも「お金」について学ぶ金融教育の重要性が注目され始めた。2022年度からは高校の家庭科の授業で「資産形成」が導入されることが決定している。金融教育や社会貢献教育が浸透して、タンス預金や銀行預金に眠っている莫大な預貯金が「投資」や「寄付」に回っていけば、社会をよい方向に変革させる可能性が大いにある。

テクノロジーの進化により、これまでに比べて簡単に投資や寄付をすることが可能になった。SNSやインターネットで社会問題を知り、助けたいと思ったときにスマホから簡単に寄付ができる時代だ。デジタルネイティブと呼ばれるZ世代や未来の子どもたちが、LbGのような教育を通して「自分以外の誰かを助けるためのお金の使い方」を学ぶことは、日本の寄付市場を加速度的に成長させることに繋がるだろう。

寄付は、社会をよくするために行動してくれる誰かに「思い」と「お金」を託す未来への投資である。そのお金には、寄付をする人も、寄付を受ける側も、未来の子どもたちをも、幸せする力がある。
誰ひとり取り残さない社会を実現させるために、あなたがいまができることはなんだろうか。そこには「寄付」という選択肢があるはずだ。大寄付時代の到来は、もう目の前に来ている。

日本ファンドレイジング協会の取り組み「社会貢献教育」に関する詳細・寄付方法はこちらhttps://jfra.jp/action/join/donate

 

取材・文:篠ゆりえ
編集:おのれい