よりよい未来の話をしよう

「ECO DENIM」に「ECO FUR」。 トレンドの「エコ」ではなく、スタンダードの「エコ」を目指すファッションとは。

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ECO DENIMってなんだ?

久しぶりに買い物へ出かけた。デザインに惹かれて黒のスカートを手に取った。タグに目をやると「ECO DENIM」と書いてある。聞き慣れない響きだ。

記憶を辿ると、確か2015年にデニム生地で作られたジーンズ1本あたりの環境汚染の研究結果が発表され、その時には「デニムを大量生産するのはよくない!」だとか「今持っているジーンズを長く使うことで環境を守ろう!」という話題としての一時的な盛り上がりがあった。このエコデニムもその流れから生まれたのだろうか?

デニムと環境汚染

どうやら「エコデニム」とは、環境に配慮した素材・生産方法でつくられたデニム素材を指すようだ。私が購入したスカートのブランドサイトを確認すると、こう書いてある。

ー「私たちのエコデニムは、100%オーガニックコットンでつくられています」

このエコデニムという考えが生まれるきっかけにもなったであろう、前節でも触れたジーンズ1本あたりの環境汚染について紹介しよう。

2015年、デニム製品で有名な「LEVI STRAUSS&CO.」(以後、リーバイス)により、1本のジーンズが繊維から製品になり、販売・利用され、リサイクルされるまでに自然環境へ及ぼす影響を検証した「Product Lifecycle Assessment」が発表された。同発表内で、リーバイスは「ファッションが自然環境へ与えるインパクトの大きさとその解決は、リーバイスのみならず、他ブランドを含めたアパレル産業全体で向き合うべき問題だ」と提示した。

調査結果は、ジーンズ生産による環境負荷をわかりやすく示している。

※以下、結果の抜粋(筆者和訳)

ーーーーー

1本のジーンズが生産され、リサイクルまたは廃棄されるまでに排出されるCo2や水の使用料など

  • Co2排出量:33.4キロ
    アメリカ製自動車で111キロメートル走り続けた時/プラズマテレビを276時間見た時に排出されるCo2の量に相当
  • 水の使用量:3,781リットル
    →アメリカに暮らす1家族が3日間生活できるだけの水量に相当
  • リン酸排出量:48.9グラム
    →トマト1,700個分に含まれる量に相当

ーーーーー

(参考:「LEVI STRAUSS&CO. Product Lifecycle Assessment-THE LIFE CYCLE OF THE JEANS」
https://www.levistrauss.com/wp-content/uploads/2015/03/Full-LCA-Results-Deck-FINAL.pdf )

これらは〈ジーンズ1本のライフサイクル〉に関わる数値として紹介されている。たったの1本だ。

日常生活に置き換えた説明書きが、環境に与えるインパクトの大きさを物語る。デニム製品を主力として扱うリーバイスが率先してこの実験を行ったことで、デニム生地生産について「エコ視点」が加わったと言っても過言ではないだろう。

さらに、私が購入したスカートのブランドサイトにはこうとも書いてあった。

ー「この100%オーガニックコットンは、Cradle to Cradle Certified™ ゴールド認証を受けています

「エコデニム」というだけではなく、もう一歩踏み込んだ製品であるようだ。

Cradle to Cradle......「ゆりかごからゆりかごまで」と名付けられた認証とは、どういったものなのだろうか。

循環型経済を目指すCradle to Cradle Certified™(C2C認証)とは

Cradle to Cradle Certified™とは、「世界中の全ての利害関係者に対して、地球とひとにとって良い影響を与える製品や材料をつくり・活用することを導き、刺激し、可能にする」というミッションの元、より安全でサスティナブルな製品を定める認定のことを指す。
「1つのゆりかごから、また新たなゆりかごまで」という認証の名前が指し示すように、「生産→消費→生産」の完全循環を目指す、サーキュラー・エコノミーを推進する取り組みともいえる。この認証は、2010年に発足した非営利団体「CRADLE TO CRADLE PRODUCTS INNOVATION INSTITUTE( https://www.c2ccertified.org )」により運営され、同研究所が設ける審査基準に則り付与される。

審査項目は以下の5項目だ。(※筆者和訳)

ーーーーー

  1. 材料の安全性
  2. 材料の再利用
  3. 再利用可能エネルギー
  4. 水の管理責任
  5. 社会的公平性

ーーーーー

参考:「What is Cradle to Cradle Certified™?」
(CRADLE TO CRADLE PRODUCTS INNOVATION INSTITUTE)
https://www.c2ccertified.org/get-certified/product-certification

これら5項目それぞれについて、最高レベルを指すプラチナムから、ゴールド、シルバー、ブロンズ、ベーシックの基準で審査され、最終的な認証レベルが決定する。

認証へは、企業・団体の製品が、団体が設ける申請の基準をクリアしている場合のみエントリー可能であり、その後、第三者機関の評価者やアナリストとの検証実験などを経て、認証獲得を目指す。獲得後は、2年ごとの更新が必要であり、更新に際しては認証時と同様の検証が行われる。
研究所のホームページではすでに認証を受けている企業・製品が確認できる。しかし、現在サイト上で確認できる認証数、620件に対して、最高レベルのプラチナム認証は1件のみ。全世界共通の基準ということもあり、いかに厳しい審査なのかが伝わる。驚くことに、そのプラチナム認証を受けているのは、デニム生地であった。

▼C2C認証の評価ページ(画像は一部のみ。公式サイトでは製品画像の下に評価コメントが続きます)

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https://www.c2ccertified.org/products/scorecard/beluga-rajby-textiles-pvt-ltd

この認証を受けていることは、地球環境・人間生活に配慮している企業姿勢を示し、そしてその認証を受けている素材を使用することは、認証のあり方に賛同していることを示す。
欧米を中心に広がりを見せるC2C認証だが、日本の企業・製品でも保持しているものはあるのだろうか。

C2C認証を受けている日本の製品

研究所に問い合わせたところ、日本の製品でも獲得している企業があった。

旭化成株式会社の繊維素材である「スパンデックス ロイカV550」が、「材料の安全性」の項目でGold認証を獲得している。「ロイカ」は、今年で誕生50年を迎える歴史の長いストレッチ繊維だ。伸縮性がありスポーツウェアなどによく使われるのだが、その繊維のシリーズでも「ロイカV550」は生分解性がある繊維だという。同繊維は、ヨーロッパにある関連会社「Asahi kasei Spandex Europe GmbH」によって開発され、今後グローバル展開していく予定だ。

参考:繊研新聞社「旭化成のスパンデックス「ロイカ」リサイクル糸や生分解を拡充」
https://senken.co.jp/posts/asahi-kasei-roica-201124

研究所からは、この他にも、いくつかの日本企業・団体が認証獲得に向けて準備を進めている、との回答を得た。今後、日本でも耳にする機会が増えるかもしれない。

▼「ロイカ V550」の認証ページ イメージ( https://www.c2ccertified.org/products/mhcertificate/roica-v550

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ファッションにおける「エコ」はトレンドではなくスタンダードになりえるのか

いつしか毎日のように耳にするようになった「SDGs」という言葉。SDGsが掲げる17の目標は我々の生活に深く関係している。
大量生産・大量消費のファストファッションが流行ったかと思えば、対抗するようにスローファッションという言葉が出てくる。トレンドに左右されやすいファッション業界ではあるが、そのトレンドの力がファッションにおけるSDGsやエコを考えるきかっけになっているのも確かだ。

例えば、ここ2・3年で大流行している「エコファー」もそのひとつと言える。動物愛護の観点からコートやマフラーなどの毛皮製品は敬遠されつつあった。しかし代用品としての「フェイクファー」はその言葉の響きから「毛皮擬き」というネガティヴな印象を拭いきれず、なかなか台頭しなかった。
ところが、この化学繊維のファーを「動物の犠牲を伴わない生態系に配慮したエコ製品」として「エコファー」と呼び出した頃から売れ行きは急上昇、一気にファッションアイテムとしてスタンダードな存在として定着した。

C2C認証の存在は、ファッション業界においても完全循環型のビジネス展開が可能であることを示す大きな鍵になることは間違いない。

サスティナブルファッション・エコファッションというトレンド力のおかげで、ファッションとエコを考えるきっかけを得る機会は増えた。
私たち消費者は、そのきっかけをうまく掴み、サスティナブルでエコなファッションを「トレンド」では終わらない「スタンダード」にしていきたいものだ。

 

文:おのれい
編集:柴崎真直